第31話 おすすめの次に
返ってきた問い合わせには、食べたい料理の名前がなかった。
『ほかには、何がありますか』
美緒が俺の画面を覗いた。
昨日は窓口へ質問を出すところまでで終わっている。
今日は返事を前にして、二人とも黙っていた。
「一覧を送ればいいかな」
「全部ですか」
俺は通常の品目一覧を開いた。
主食とおかずを分けても一画面では収まらない。
カレーだけで味付けの違うものが並び、その下には魚と肉と卵が続いている。
売る方にいると、選択肢は多いほどいいと思ってしまう。
選ぶ方になると昼休みが先に終わる。
「俺、これを見せられたら昨日と同じものにする」
「名前だけでは選びにくいですね」
美緒は一覧の端へ三つの枠を作った。
辛さで分けるのかと思ったら、上に書いたのは『いつもの味』『違う味』『まだ決めない』だった。
「まだ決めないのも、返事にしますか」
「聞かれたから今日中に決めろって話じゃないし」
俺が答えると、美緒は最後の枠を残した。
ただし、その枠を付ければ何でも送っていいわけではない。
先方へ案内できる品目は現地窓口に確認する。
俺は候補を付け、美緒は材料の説明を地上へ回した。
笹倉さんから戻った一覧は、俺たちが最初に開いたものより短かった。
今の受け渡しで扱えるもの。
説明と一緒に案内できるもの。
食べられる理由まで俺たちの仕事だけで決めたことにはしない。
それでも、選べるものはあった。
写真を付ける案も出た。
地上の皿に盛った商品写真と、こちらで袋を固定した写真を並べる。
「こっちは、出てこない皿ですね」
美緒が地上の写真を指した。
白い皿に野菜の緑が添えてある。
袋を開ければ皿も付いてくる、と言われたら俺でも困る。
「盛り付けた例って書こう。袋の写真を先にして」
「おいしそうな方を、先にしないんですか」
「届いた時にがっかりしてほしくない」
美緒は袋の写真を見た。
それから俺ではなく、皿の方へ目を戻した。
「届く方も、よくできたらいいですね」
その言い方が気になって、俺は彼女の手帳を見た。
昨日まで料理の説明を直していたページとは別のところが開いている。
丸い器が三つ。
その下に固定の位置を示す短い線があった。
まだ、提出する図面ではなかった。
◇
終業の前に案内の版が揃った。
俺は笹倉さんへ出す添付を開き、袋の写真から順に読んだ。
最後まで送ってから、送っていないものを机の上から片づける。
地上の写真を勝手に足すのはやめた。
「相沢さんなら、どれを選びますか」
美緒が聞いた。
「今日?」
「この一覧で」
俺は鶏の照り焼きを選んだ。
理由を聞かれて、あの匂いがしたら白いご飯にしたい、と答える。
美緒は自分の手帳に何か書いた。
「試験の結果?」
「私が、食べたくなったものです」
俺も明日の夕飯を予約しようとして、昼の欄を開いていたことに気づいた。
閉じる前に自分の勤務表を見る。
明日は夕方の予定が早く終わる。
窓の前に行ける時間もある。
俺は美緒へ連絡を作った。
隣にいる相手に送るのも変なので、画面を閉じて声を掛ける。
「明日、飲み物の約束どう?」
美緒が顔を上げた。
「私の予定、まだ見てませんよ」
「だから聞いてる」
彼女は自分の勤務表を開いた。
その間は俺も予約を押さない。
「行けます。地球、見えるでしょうか」
「見えなかったら、飲み物だけになる」
「それでも行きます」
俺は二人分の席を探した。
仕事の添付を選ぶより、その操作の方で指が止まった。




