第28話 写真には、音が写らない
夕飯を終えて部屋へ戻ると、地上から夕飯の写真が届いていた。
普通の皿に普通の夕飯が載っている。
俺が到着した夜に送った地球と食事の写真への返事だった。
文章は先に来ていたが、写真は今日になった。
箸が皿の横に置かれている。
汁物の椀がその向こうにある。
水の入ったコップは底を机へ付けている。
全部、当然のことだった。
俺は画面を机へ固定してしばらくそのコップを見た。
地上なら、手を離してもそこに残る。
箸を持ったまま立ち上がって、忘れた醤油を取りに行ける。
今、自分の部屋で同じことをする姿を想像すると、醤油へ行く前に箸をどこへ留めるか考えてしまった。
『こっちも、ちゃんと食ってる』
返事を書いた。
食堂で撮った写真を付けようとして、今日の分がないことに気づく。
探しているうちに、マコと昼に撮った写真が出てきた。
地球は、画面の右側へ小さく入っていた。
俺とマコが、ほとんど全部を使っている。
マコの指が俺の手首にかかったままだった。
撮る直前に身体が横へ流れ、戻してもらった時の手だ。
自分の顔を見ると、少し気の抜けた笑い方をしている。
窓の景色を見た顔ではない。
俺はその写真を送信欄へ入れず、元の場所へ戻した。
二人で撮ったものを、俺ひとりで誰かへ見せるのも違う。
地上への返事には食堂でよく食べる品目だけを付けた。
送ると、部屋が静かになった。
空調の低い音がある。
地上の写真には皿と箸が写っているのに、箸が皿へ当たる音はなかった。
台所の換気扇も、コップを机へ置く音も。
音は俺が勝手に足している。
宇宙へ来てから見た地球の写真にも、そういうことがあるのだろう。
俺が食堂にいることを知らない人は、ずっと窓の前で地球を見ている四十歳を想像するかもしれない。
実物は、夕飯の場所を間違え、一覧を直し、肩を回すと気分が悪くならないか心配している。
端末を見ていたら、マコから連絡が来た。
『写真、地球が小さいな』
俺はもう一度開いた。
『撮る時、二人入れる方を先に見てた』
送ってから、返事を待った。
待つほどの文章ではない、と自分に言いかけた。
でも、送信した画面を閉じることはできなかった。
昔と同じ写真だ、と言ってしまえば楽だった。
俺はずっと、そういう言い方で済ませている。
何かを確かめた後に、今みたいな返事まで来なくなるのが怖い。
『それなら、あれでいい』
少し経って、返事が来た。
その後に今日の勤務が終わったことも。
俺は、お疲れ、と返し、袋の開け方を一つ教わった礼も書いた。
『今頃かよ』
『今日、最後の一口が残らなかった』
『それはよかった』
そこでやり取りが止まった。
俺は机の固定具を外し、寝台へ移った。
眠る時は身体を寝袋へ収め、手の届く場所へ端末を留める。
地上でなら、横になったまま天井を見る。
ここでは天井と呼んでいる面を、自分で選んで見る。
灯りを落とす前に、写真をもう一度だけ開いた。
マコはレンズではなく、俺の方を見ていた。
シャッターを切る時には、気づかなかった。
写真の中の自分はそれを知らないまま笑っている。
俺は画面を閉じた。
今夜も、空調の音がした。




