第27話 届けないという、仕事
翌日の午後に行われた演習では、通常経路のハッチが閉鎖された想定になっていた。
実際の通行可否と演習上の閉鎖区画は表示を分けてある。
俺は模擬の食品袋が入った容器を胸の前の携行具へ留めた。
中身は食べ物ではない。
それでも、受け渡しをするまでは、食品と同じように扱う。
現地の再評価担当が壁の時計を指した。
「予定の受取時刻までに、通常経路が使えなくなった想定です」
地上の訓練でも経路図は見た。
今は図の線を辿る前に、身体を止める手すりを探してしまう。
見るものが一つ増えていた。
マコは受け渡し側の記録を持っている。
俺の同行者ではなく、別の担当だった。
「代替の受取口へ回せますか」
俺が聞くと、マコは一覧を見た。
「その先の受領確認がない」
「窓口自体は開いてる」
「誰かいることと、この袋を引き取れることは、同じじゃない」
俺は手元の番号を見た。
受取時刻まで、残りが減っている。
食べる人が待っていると思うと、とにかく袋を向こうへ進めたくなる。
昔、納品に遅れた時も、車が動いている間だけは何かしている気になれた。
ここでは持ったまま移動することが正解とは限らなかった。
「この位置で止めます。窓口へ、受渡口を指定し直してもらいます」
俺は連絡を入れた。
袋の番号。
現在の位置。
通常経路が使えないこと。
返事が来るまで、容器を胸の携行具へ留めたまま待つ。
現地担当が手元の記録に何かを書いた。
受取時刻を過ぎた。
演習の中で俺の袋はまだ届いていなかった。
◇
結果を確認する部屋では誰も速さを褒めなかった。
予定どおりには届けられていない。
その下に、行先の確認前に移動を続けなかった、と書かれていた。
「連絡が少し長いです」
担当の人が俺の録音を止めた。
番号を言う前に、通常の窓口ではこう案内されて、と説明している自分の声が流れた。
聞いているだけで、早く番号を言え、と思った。
「最初は袋を特定できる情報から。事情は、聞かれた順に補ってください」
「はい」
それでも、勝手に別の行先へ持っていかなかった点はそのまま記録された。
マコは自分の受領側の記録を見せた。
連絡を受けた時刻と窓口へ照会した時刻がある。
俺が止まっていた間に、別の場所で誰かが動いていた。
「食事が遅れる時、食べる側への連絡は?」
俺が聞くと、担当の人が画面を送った。
配送側だけで終えず、生活側の窓口へも状況を渡す。
その先は代わりの食事が必要かどうかも含めて、担当が確認する。
袋を運ぶ記録にはそこまで載っていなかった。
俺は質問したところへ印を付けた。
一昨日の七食の件では数字を間違えたと思った。
今日は、その数字の先に夕飯を待っている人がいることを忘れかけた。
演習を終えると、マコは物流側の見直しへ呼ばれた。
「先に戻っていいよ」
「俺も一つ、聞いてから戻る」
マコが俺の記録を見た。
「番号の言い方?」
「遅れる連絡に、どこまで書いていいか」
「そっか」
それ以上は聞かず、マコは自分の担当の方へ向かった。
俺は模擬の容器を返却した。
本物の夕飯ではないと分かっていても、空になった携行具を見ると肩の力が抜ける。
通路へ出る前に、次の連絡用の短いメモを作った。
最初の行に、番号。
その下に、現在の位置。
演習で止まった場所を、俺は今日から知っている。




