第25話 七人分の、余りかた
翌朝、俺が直した一覧から七人分の夕飯が余った。
正確には、まだ余っていない。
夕方に余る予定になった。
笹倉さんが画面の二つの行を指していた。
同じ品目。
同じ製造番号。
同じ受取時刻。
七食ずつ、二つ。
「必要なのは七食ですか、十四食ですか」
俺は出荷記録を開いた。
「七食です。
こっちは更新前の行です」
「更新した後も、残っていますね」
昨日、俺は新しい案内に合わせて行を追加した。
前の行を履歴として残し、無効にするよう備考へ書いた。
画面の下の方にその備考がある。
印刷した受渡一覧には載っていなかった。
俺は何度も確認したつもりだった。
自分の画面で。
笹倉さんは夕方の準備へ回る前に、印刷した紙を照合してくれていた。
「今なら、加熱数の確定に間に合います」
俺は訂正を書く欄を開いた。
七を消してゼロを入れかけた。
手が止まった。
それでは、履歴の食数まで消える。
今度は地上の人が何食出したかを追えなくなる。
「行を消すのではなく、準備に使う版を一つ指定したいです」
言いながら、そんなことは昨日言えばよかったと思った。
笹倉さんが受け渡し担当を呼んだ。
俺は自分の訂正案を出した。
まだどちらの行にも触れなかった。
◇
マコが持ってきたのは、紙の一覧だった。
物流側で受け取った版と食堂側に出た版を机の固定板へ並べる。
「こっちには備考がある。
こっちにはない」
マコが指を置いた。
「俺が付けた。
画面で見えるから、それで伝わると思った」
「印刷は見た?」
「見てない」
マコは頷いた。
慰める顔ではなかった。
受け渡し担当の人が無効な行へ印を入れる。
加熱する数を決める担当にも変更した一覧を見せた。
確認した人が名前と時刻を入れるまで、俺たちは元の指示を止めたまま待った。
食品袋はまだ保管場所にある。
慌てて取り出す必要も、戻す必要もなかった。
訂正が通ると、マコが物流側の記録を更新した。
俺がもう一度口を出しかけたところで、こちらを見た。
「そこは俺が確認する」
「分かった」
友達なら、昔からどちらの得意なことか知っている。
職場では、それとは別に担当が決まっている。
俺は自分が出す地上への訂正連絡を書いた。
最初の文を『表示に不具合があり』と書きかけて、消す。
『現地の印刷一覧を確認せず、備考だけで更新前の指示を無効にしたため、二重に準備されるおそれが生じました』
自分の名前を付けた。
送信する前に、胸の辺りが嫌な感じになった。
この程度の仕事にも、もう少し格好のいい四十歳で来たかった。
「送る?」
マコが聞いた。
「送る」
押した後の画面は押す前とあまり違わなかった。
ただ、書き直せばなかったことになる時間は終わった。
◇
夕方、七人分の袋が七人分だけ準備された。
俺は受取口の横で確定した一覧を見た。
自分が食べる品目ではない。
それでも、袋が七つ並んだことを確かめるまで、席へ戻れなかった。
笹倉さんが数を見て、台の固定具を閉じた。
「間に合いましたね」
「次は、間に合わせる前に済ませたいです」
「それが助かります」
笑ってくれたが、まったくその通りだった。
◇
食堂へ戻ると、マコが先に食べていた。
俺の席は取っていない。
空いているところへ自分で固定具を使って収まる。
「七食だった」
言うと、マコが箸を止めた。
「知ってる。
確定した時、俺にも来た」
「そっか」
俺は自分の袋を開けた。
昼を食べたことは覚えているのに、何を食べたかが出てこない。
夕飯の匂いでようやく腹が減っていたことを思い出す。
「今日は、ご飯の味する?」
マコが聞いた。
俺は一口食べた。
「する」
「よかったな」
「怒らないのか」
マコがこちらを見た。
「仕事で止めた。
もう書いた。
俺がここで増やしてどうするんだよ」
俺は袋の底を押した。
汁が口元の方へ寄ってくる。
窓の外の地球を見る余裕は、今夜はなかった。
マコも特に外を見ろとは言わなかった。
食べ終わる頃、地上から返事が来た。
再発防止の欄に印刷した版も確認すること、とあった。
その下に出荷数へ影響はない、と追記されている。
俺は短く返信し、端末を閉じた。
七人分の余計な夕飯は、作られなかった。
俺の夕飯は、最後まで食べられた。




