第24話 ついでではない、昼ごはん
マコの勤務表が出たのは約束をした日の三日後だった。
俺の端末へ空いている時間を囲った画像が来た。
『明日の昼。午後は休み』
俺も自分の予定表を開いた。
午前の確認を終えれば、次の勤務は翌朝までない。
返事を打つ前に、食堂の予約を見た。
空席はあった。
いつもの席も、窓に近い二人用の席も。
俺は二人用の方を選んだ。
『十二時。窓のところを取った』
送ってから、もう少し普通の返事があっただろうかと思った。
『分かった』
返事はすぐに来た。
その後に、もう一つ。
『仕事の資料、持ってくるなよ』
俺は机に留めた手帳を見た。
資料ではない。
出張の記録とマコと飯を食う予定が一緒に入っている。
迷って、鞄へ入れずに置いた。
◇
翌日、マコは十二時より先に来ていた。
黒い上着の袖を手首で留めている。
胴のところにはゆとりがあって、身体を固定した姿勢でも布が突っ張らない。
地上で選んでいた服をここでも着ている。
「早いな」
「お前より?」
「うん」
「お前と飯食う時、だいたい俺の方が早いだろ」
それもそうだった。
俺は向かいの固定具へ身体を収めた。
窓の外には、雲が斜めに走っている。
マコはすぐにそちらを見なかった。
「資料は?」
「置いてきた」
「よし」
「仕事じゃなくても、合格を貰うのか」
マコが笑った。
食事は先に注文してあった。
二人分の袋を留めると、窓の外へ目をやる余裕ができる。
地上で昼飯を食っていた頃は、店の窓に反対側のビルが映っていた。
今日は雲の上の青いところがテーブルの端を通っていく。
「窓の席って、こんなだったかな」
俺が言うと、マコがやっと外を見た。
「景色は、前よりいい」
「飯は?」
「袋から食ってる時点で、店とは違うな」
「相手は?」
口に出してから、変なことを聞いたと思った。
マコの指が、袋の切り口で止まる。
「……変えたいのか?」
俺は首を横に振りかけて、やめた。
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味」
窓の青い縁がマコの肩の後ろに来ていた。
俺はそこを見ず、マコの顔を見た。
「今日、一緒に食べられてよかったって話」
昔からの友達に、今さら言うことでもない。
でも、仕事が終わってたまたま空いていた席に二人で入ったわけではない。
俺が誘って、マコが時間を教えた。
マコは目を伏せ、袋を開けた。
「じゃあ、そう言えよ」
声が、いつもより低くなった。
俺も袋を開けた。
しばらく二人とも食べる方へ集中した。
こういう時に限って、煮物の一切れがうまく寄ってこない。
マコが俺の手元を見て、袋の角を指した。
「そこ、折るといい」
「こう?」
「そう。お前、昔から最後を残すな」
「弁当の米粒まで覚えてるのか」
「お前が毎回同じことするからだ」
笑う顔は、見慣れていた。
そのはずなのに、今日それを見て安心したことは、口に出せなかった。
食後も、マコは時間を見なかった。
俺も次の予定を持ってきていない。
「写真、撮る?」
聞くと、マコは窓へ目をやった。
「地球?」
「二人で」
マコがこちらを見た。
俺は端末を出したまま待った。
撮らなくてもいい、を先に足すのは、今日はやめた。
「いいよ」
二人とも固定具を外し、窓際の手すりへ移った。
肩が触れそうなところで、俺の身体が横へ流れる。
マコが手首を掴んだ。
「そっち、行きすぎ」
「ごめん」
俺が手すりへ掴まり直しても、マコの指は、すぐには離れなかった。
画面の中では、地球より先に、二人の顔が並んでいた。
シャッターを切る。
高校の頃の写真は、誰かに押されて並んだものばかりだった。
今日は俺が言い出して、マコが頷いた。
「送って」
マコが言った。
俺はその場で送った。
写真の名前に日付を入れ、あとから昼、と付け足した。
誰に説明するためでもなかった。




