↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40歳、宇宙出張。 ~食品会社の普通のサラリーマンですが、会社命令で宇宙に行くことになりました~  作者: 綺羅星の猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/61

第23話 空欄のまま届く、感想

翌日の午前、美緒が俺の席へ来た時、紙ではなく閉じた端末を持っていた。


「これ、一緒に読んでもらえますか」


俺は途中まで入力した数字を保存した。


彼女は隣の固定具へ身体を収め、画面を開く。

現地窓口を通して届いた食事の感想だった。


品目。

製造番号。

食べた時の加熱条件。


その下に感想を書く欄がある。


氏名は非表示だった。

地上で何度か見たコードだけの受領先と同じものが付いている。


そこまでは、仕事の連絡として読めた。


『開けた時に、食べ始める場所ができたように思いました』


俺はその一文を二度読んだ。


美緒が待っている。


「これ、味の話じゃないんだな」


「たぶん、香りだと思います。続きがあります」


画面を下へ送る。


『同じものを、もう一度食べたいです。次は、料理の名前も知りたいです』


品名は袋に印刷してある。


俺は画像を開いて、原材料表示の横を見た。

小さな文字でちゃんと載っていた。


「書いてあるけどな」


「読めることと、どんな食べ物か分かることは違うかもしれません」


美緒は地上へ送る確認事項を開いた。


「このまま宣伝に使う話にはしません。まず、いつもと同じ手順で食べられたかを確認します」


香りが良かったから、扱い方まで問題なかったとは限らない。


俺が加熱条件を読み上げると、美緒は記録の数値と照らした。


その後で、もう一度感想へ戻る。


「でも、嬉しいです」


仕事の画面を見たまま、彼女が言った。


俺もあの一文へ戻った。


食べ始める場所ができた。


普通なら、袋を開ける前から食堂はある。


この人にはそういう順番ではなかったのだろうか。


一昨日見かけた女性の顔が浮かび、俺は画面の端へ目を戻した。

あの人が何を食べるか、俺は聞いていない。

知らない人同士を知らないまま結びつける理由はなかった。


「料理の名前、どう返そうか」


「正式な品名は、そのまま送ります。説明を付けてよいかは、窓口へ聞いてみます」


美緒が問い合わせを書いた。


返信相手の欄には受領先の名前ではなく、笹倉さんの窓口が入った。


    ◇


午後の再試験では、袋の角を押さえる位置を変えた。


作業台の囲いの中で空の袋を使う。

俺が引き、美緒が動きを記録する。


一回目は切り口を見ようとして手元を自分へ寄せすぎた。


二回目はそこまで寄せないよう気にして、指が滑った。


三回目でようやく、途中の手の動きが二人で同じように説明できた。


「うまくなった?」


「何を気にしたかが分かるようになりました」


褒める場所がいつも少し変わっている。


俺は固定具から片手を外し、肩を回した。

美緒は次の袋を出す前に、休憩の表示を入れた。


「香りのこと、今の試験に入れないの?」


「今日は開ける動きです。匂いまで一緒にすると、何が変わったか、追えなくなります」


彼女は手帳へ、別のページを一枚挟んだ。


そこにさっきの感想が短く書いてある。


試験の記録と捨てたくない言葉を同じ線で囲んではいなかった。


終業の連絡が来て、俺たちは道具を固定し直した。

使った袋の番号を数え、回収容器を閉じる。


「今夜、何を食べますか」


美緒が聞いた。


「試験した袋じゃないもの」


「それは、食べないでください」


「じゃあ、煮物」


美緒は笑ってから、自分の予定表を見た。


「今日は地上へ送る記録があるので、遅くなります」


「終わるまで待つ?」


「お腹が空くので、相沢さんは先に食べてください」


俺の空腹ではなく、自分も空腹になると言っている顔だった。


「記録が長くなるなら、先に食べるのもありじゃないか」


彼女は手帳を開き、送信の締切を見た。


しばらく考えて、鞄を閉じる。


「三十分だけ、付き合ってもらえますか」


俺は頷いた。


食堂へ行く途中、美緒が「感想の人にも、冷めないうちに食べてほしいですね」と言った。


俺は一昨日の冷めたご飯を思い出して、ほんとに、と答えた。


まず俺たちの夕飯を温かいうちに食べることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。