第22話 話せることと、冷めたご飯
確認室の机にはさっき俺が辿った経路が出ていた。
夕飯の袋を机へ留め、身体を固定具に収める。
笹倉さんは俺が落ち着くのを待ってから画面を広げた。
「共用受渡室までは、この番号で合っています」
画面に俺の予約番号と臨時窓口の処理時刻が並ぶ。
「問題は、こちらの通路側の掲示です。利用する時間帯の違う案内が、一緒に表示されていました」
食事の受け渡しと来訪者の出入り。
共有するのは受渡室までで、その先は別だという。
俺の夕飯の番号が誰か別の人の番号に変わったわけではなかった。
扉も俺の認証で開いたのではない。
「入口で止まっていただけて、助かりました」
「言われたので」
「それでもです」
笹倉さんは俺の返事を記録した。
奥へ入っていない、と読み上げて確かめる。
それから袋を開けていいと言ってくれた。
一口目は、少し冷たかった。
妙なところへ行った後なのに、最初に考えたのは加熱口へ戻るほどではないな、だった。
「あの方は、どちらの担当なんですか」
「滞在者の個人情報は、この場ではお伝えできません」
「そうですか」
研究員とも、来客とも言わなかった。
俺はもう一口食べた。
聞かなかったことにはできないが、答えを貰う理由も持っていない。
「同僚へは、何を説明できますか」
「案内の不具合で確認に時間がかかったことは構いません。見かけた方の情報や、扉の内側の様子は共有しないでください。追加で説明が必要な場合は、こちらから連絡します」
会社へ出す連絡には遅れた時刻と明日の受取位置を書く。
俺はその場で下書きを見せた。
笹倉さんが確認している間に、ご飯を食べ終えた。
袋の底へ寄った最後の一口だけ、まだ温かかった。
◇
翌朝、美緒は俺より先に食堂へ来ていた。
「昨日、遅かったですね」
「受取案内の確認で、時間がかかった」
「ご飯、食べられました?」
「確認室で。机に経路図があると、少し残業の味になる」
美緒が笑った。
マコが身体を固定し、自分の袋を留める。
「そっちもか」
「そっちも?」
「共用の引渡口が一つ、時間帯を変更した。今日は配送台の案内と食事の案内を分けて出す」
俺が見た女性のことは、マコの話には出てこなかった。
手元の一覧にも、滞在者の名前はない。
「昨日、その表示を見た」
「じゃあ、直す前の最後の利用者だったかもな」
「記念品は冷めたご飯か」
「貰えただけ、よかったじゃないか」
もっともだった。
美緒はパンの袋を開けていた。
切り口の下へもう片方の手を添え、離れた小さなかけらを袋へ戻す。
囲いのある作業台で見た動きを今朝は自分の朝飯にしている。
「今日は再試験?」
「はい。先に地上の担当と、開ける向きの記録を合わせます」
「うまくいくといいな」
「うまくいかなくても、どこでそうなるかは持って帰りたいです」
彼女は袋を留め直した。
指の位置をもう一度見ている。
マコの端末が光った。
「俺、今夜は遅い。先に食えよ」
「終わったら連絡して」
俺が答えると、マコは端末を閉じた。
「先に食うって言ったよな?」
「食う。連絡は受け取る」
マコは何か言い返そうとして、飲み物を飲んだ。
美緒の目が俺とマコの間を一度だけ動いた。
朝飯を終えると、美緒は作業区画へ、マコは配送窓口へ向かった。
俺は食堂の手すりを辿って反対側のハッチへ行く。
今朝の掲示には変更した時刻と確認した人の名前があった。
同じ壁なのに、昨日より頼りになる。
俺はその下を通り、自分の出勤先へ向かった。




