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第7話 私服

金曜の夜、澪からメッセージが来た。


『明日暇?』


悠真はベッドの上で画面を見る。


予定はない。


『暇だけど』


すぐに返事が来た。


『駅前の本屋行かない?』

『英語の参考書見たい』


『真帆は?』


送ってから、別に聞く必要もなかった気がした。


『明日用事あるって』


続けて、もう一通。


『二人じゃ嫌?』


悠真は画面を見た。


『別に嫌じゃない』


少しして、


『じゃあ13時に駅ね』


と返ってきた。


『了解』


スマホを置く。


その時は、それだけだった。





翌日。


悠真が駅に着いたのは、待ち合わせの五分前だった。


改札前の柱のそばで待つ。


十三時になる少し前、改札から澪が出てきた。


悠真は一度見て、


もう一度見た。



制服ではなかった。



白いシャツに薄手のカーディガン。


黒いスカート。


学校では結んでいる髪も、今日は下ろしている。


澪が悠真を見つけ、手を上げた。


「待った?」


「いや」


答えながら、悠真はもう一度澪を見る。


澪が自分の服に目を落とした。


「何?」


「いや」


「変?」


「違う」


「じゃあ何」


悠真は少し迷った。


「制服じゃないなと思って」


澪が黙る。


それから笑った。


「土曜日だからね」


「分かってるよ」


「佐倉も制服じゃないじゃん」


「そりゃそうだろ」


「私もそうなんだけど」


「それも分かってる」


「じゃあ何だったの?」


「もういいだろ」


澪はまだ笑っていた。


「行こっか」


二人で駅前の書店へ向かった。





参考書売り場で、澪は英語の問題集を二冊持ってきた。


「どっちがいいと思う?」


悠真は一冊ずつ中を見る。


「こっちは解説多い」


「でも分厚い」


「こっちは薄いけど問題多いな」


「佐倉なら?」


「薄い方」


澪が顔を上げる。


「なんで?」


「最後までやれそうだから」


「私も薄い方がいい?」


「高梨は分厚い方」


「なんで私だけ」


「分からないところ多いって言ってたじゃん」


澪は二冊を見比べる。


「ちゃんと覚えてるんだ」


「昨日聞いた話だろ」


「そうだけど」


結局、澪は分厚い方を買うことにした。



そのあと漫画売り場へ移った。


澪が新刊を探している間、悠真は隣の棚を眺める。


一冊手に取って裏表紙を読んでいると、横から声がした。


「それ読むの?」


顔を上げる。


澪の顔が、思っていたより近くにあった。



悠真は反射的に半歩引いた。



澪も動きを止める。


「何?」


「近い」


「そんなに?」


「近いだろ」


澪は悠真との距離を見る。


「学校でもこれくらいじゃない?」


「そう?」


「多分」


確かめるように、澪が少しだけ顔を近づける。


悠真は持っていた本を下げた。


「やめろって」


「何が?」


「確認しなくていいから」


澪が笑って離れる。


「佐倉、こういうの気にするんだ」


「普通だろ」


「へえ」


「何」


「別に」


澪はまた漫画を探し始めた。


悠真も本へ視線を戻す。


さっきまで読んでいた文章が、どこまでだったか分からなくなった。





買い物を終えると、澪が喉が渇いたと言った。


駅ビルのカフェは混んでいたので、飲み物だけ買って通路脇のベンチに座る。


澪はミルクティー。


悠真はコーヒー。


少しの間、人の流れを眺めていた。


「学校の人いないね」


澪が言った。


「いたら何」


「別に」


ストローをくるくる回す。


「なんかちょっと恥ずかしくない?」


「何が?」


「こうやって二人でいるの」


悠真は澪を見る。


「いつも一緒に帰ってるだろ」


「制服だと違わない?」


澪が自分の服を見る。


悠真もつられて見る。


土曜日。


私服。


待ち合わせをして、本屋に来た。


確かに学校帰りとは少し違う。


「でも参考書買いに来ただけだろ」


悠真が言う。


「そうだけど」


「じゃあいいじゃん」


澪は一瞬だけ黙った。


「……そっか」


ミルクティーを飲む。


話題はすぐに、さっき買った漫画へ変わった。



気づくと、二人の間にあった隙間は最初より少し狭くなっていた。


どちらが動いたのか、悠真には分からなかった。





帰りの電車は少し混んでいた。


二人でドアの近くに立つ。


電車が揺れる。


澪の肩が、悠真の腕に触れた。


すぐに離れる。



それだけだった。



「今日、楽しかった?」


澪が聞いた。


「何その確認」


「いいじゃん」


「楽しかったよ」


今度は迷わず答えた。


澪が悠真を見る。


「そっか」


少しだけ笑う。



電車が駅に着いた。


改札を出たところで、澪が手を上げる。


「じゃあ月曜ね」


「うん」


「じゃあね」


「じゃあ」


澪は人混みの中へ歩いていった。



悠真も家へ向かう。



参考書。


漫画。


ミルクティー。


電車。



今日あったことを順番に思い返してみる。



最初に浮かんだのは、


改札から歩いてきた澪だった。

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