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第3話 モナカ

翌日の放課後。


「佐倉、今日ラーメン行かない?」


教科書を鞄にしまっていると、颯太に声をかけられた。


「誰と」


「部活のやつ何人か」


悠真は一瞬だけ考えた。


「今日はいいや」


「珍し」


「何が」


「お前、ラーメン断るんだ」


「毎回行ってるわけじゃないだろ」


「体感八割」


「盛ってる」


颯太は「じゃ、また」と手を上げ、先に教室を出ていった。


悠真も鞄を持つ。


「今日帰れるよ」


少し離れたところから澪が言った。


昨日一緒に残っていた真帆も隣にいる。


「昨日の手伝い、終わったの」


「終わった。アンケートの集計だけだったのに、思ったより数が多くて」


「高梨がいて助かりました」


真帆が両手を合わせる。


「報酬まだもらってないけど」


「友情で払いました」


「安い」


真帆が笑いながら鞄を持った。


「じゃ、私は先帰るね」


澪に手を振り、そのまま教室を出ていく。


悠真と澪も少し遅れて教室を出た。


昇降口を出ると、空は曇っていた。


雨が降るほどではなさそうだった。


校門を出て少ししたところで、澪が言う。


「ねえ」


「何」


「昨日モナカって言ってたじゃん」


「言ったけど」


「食べたくなった」


「じゃあ食べれば」


「佐倉も食べようよ」


「なんで俺も」


「言い出した人だから」


「おすすめしたわけじゃない」


「でも食べる?」


悠真は少し考える。


「まあ」


「じゃあ決まり」


「聞いた意味ある?」


「一応ある」


昨日、一人で通ったコンビニに入った。


入口近くの冷凍ケースの前で、澪がしゃがむ。


「どれ?」


「何が」


「佐倉が言ってたモナカ」


「種類まで決めてない」


「じゃあどれ食べる?」


悠真もケースを見る。


何種類か並んでいた。


「これでいいんじゃない」


「チョコ入ってる?」


「多分」


澪は同じものを二つ取った。


「俺もそれなの?」


「違うのがいい?」


「いや」


「じゃあ二個」


レジを済ませて外へ出る。


店の脇に小さなベンチがあった。


澪が座る。


悠真も一人分ほど空けて隣に座った。


袋を開ける音が二つ続く。


澪が一口食べる。


「普通だね」


「モナカに何期待してたの」


「昨日あんなに推してたから」


「推してない」


「でも美味しい」


「じゃあいいじゃん」


「うん」


しばらく黙って食べた。


目の前の道路を車が一台通り過ぎる。


「昨日さ」


澪がモナカを見たまま言う。


「一人で帰った?」


「そうだけど」


「どうだった?」


「何が」


「帰り道」


質問の意味がよく分からず、悠真は少し考えた。


「普通」


「そっか」


「高梨は?」


「昨日?」


「うん」


「真帆と喋ってたから普通に楽しかったよ」


「じゃあいいじゃん」


「うん」


それで話は終わった。


澪は最後の一口を食べ、包みを小さく畳む。


「帰ろっか」


「うん」


二人でベンチを立った。


駅へ向かう道を歩く。


昨日一人で通った時より、話題は勝手に増えた。


モナカならどの味が一番売れるのか。


颯太がラーメンを食べすぎだとか。


数学の小テストで最後の問題だけ妙に難しかったとか。


そのうち澪が、道の先を見たまま言った。


「佐倉って、何か決める時いつも一回止まるよね」


「そう?」


「さっきもモナカ食べるか聞いた時、考えてた」


「考えるだろ普通」


「モナカだよ?」


「モナカでも」


「じゃあ明日何食べる?」


「急だな」


「ほら」


「何が」


「今また考えた」


悠真は澪を見る。


「考えちゃ駄目なの?」


「駄目じゃないけど」


澪は少し笑った。


「なんか佐倉っぽい」


「三日くらいしかまともに喋ってないだろ」


「三日あれば分かることもあるよ」


「何が分かったの」


「今のところは秘密」


「じゃあ言うなよ」


「そのうち教える」


「いつ」


澪がこちらを見る。


「佐倉から聞くんだ」


「何が」


「いつって」


言われて、悠真は黙った。


澪は少し笑って、そのまま歩く。


いつもの分かれ道まで来た。


「じゃあまた」


「うん」


澪が自分の道へ向きかける。


悠真は口を開いた。


「明日も帰る?」


澪が止まった。


ほんの一瞬だけ、目を丸くする。


「帰る」


「じゃあまた明日」


「うん。また明日」


澪が手を上げる。


悠真も返した。


反対側へ歩き出してから、放課後に颯太へ言ったことを思い出した。


『今日はいいや』


あの時は、それだけのつもりだった。


駅へ向かいながら、悠真は一度だけ後ろを見た。


澪の姿はもう見えなかった。

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