第15話 四時半
夏休みが終わって、最初の週。
休み中も何度か会っていたが、制服で一緒に帰るのは久しぶりだった。
校門を出たところで、澪が空を見上げる。
「九月なのに暑くない?」
「暑い」
「アイス食べたい」
「また?」
「夏だから」
「九月って言ったばっかじゃん」
澪が笑った。
駅まで歩きながら、悠真がスマホを見る。
四時二十三分。
「駅前のコンビニ寄る?」
「行く」
二人でコンビニに入り、澪はチョコミント、悠真はモナカを買った。
店の外のベンチも空いている。
澪が座りながら言う。
「明日もこのくらいに帰れたら、また食べようよ」
「二日連続?」
「明日は違うのにする」
「俺はモナカだけど」
「知ってる」
悠真はスマホを見る。
四時三十分になったところだった。
「この時間ならベンチも空いてるな」
澪も画面を見る。
「じゃあ明日も四時半くらいに、ここでアイス食べる?」
「時間まで決めるの?」
「今言ったの悠真じゃん」
「空いてるって言っただけ」
「じゃあ四時半くらい」
「雑になったな」
澪はベンチに座ったまま、コンビニの方を見る。
「私は違うのにするから、悠真はまたモナカね」
「勝手に決めないで」
「違うのにする?」
悠真は手元のモナカを見る。
「たぶんこれ」
「じゃあ決まり」
澪はチョコミントを一口食べた。
そのあとは、夏休みの宿題の話になった。
◇
翌日の昼休み。
澪が悠真の席まで来た。
「今日なんだけど」
「うん」
「真帆の委員会、手伝うことになった」
少し離れたところで、真帆が両手を合わせる。
「すみません」
悠真は真帆を見る。
「なんで俺に謝るの」
「借ります」
「俺のじゃないけど」
澪が笑った。
「そういう意味じゃないでしょ」
悠真は昨日のことを思い出す。
「じゃあアイスはまた今度か」
「たぶん五時過ぎる」
「なら先帰ってる」
「うん。また明日」
それで話は終わった。
◇
放課後。
悠真は一人で帰るつもりだった。
ホームルームが終わり、鞄を持って教室を出る。
廊下を半分ほど進んだところで、後ろから名前を呼ばれた。
「佐倉」
担任だった。
「進路希望、ちょっといいか」
嫌な予感がした。
職員室で返された進路希望調査には、赤い丸がついていた。
『現時点で考えていること』
その欄が、ほとんど空白だった。
「未定なのはいいんだけど、何に迷ってるのかくらい書いてくれ」
「まだ決まってなくて」
「決まったことを書く欄じゃないよ」
どこかで似たようなことを言われた気がした。
悠真は空いている机を借りた。
考えて、二行だけ書く。
担任に見せる。
「うん。これならいい。ありがとう」
職員室を出た時には、思ったより時間が経っていた。
階段を下りる。
昇降口で靴を履き替える。
外へ出ようとしたところで、
「悠真?」
聞き慣れた声がした。
振り向く。
澪が立っていた。
「……委員会は?」
「終わった」
「五時過ぎるって言ってなかった?」
「その予定だったんだけど、途中から二人来てくれて。私いなくても大丈夫になった」
澪が悠真の鞄を見る。
「悠真は?」
「進路希望で捕まってた」
「あれ出したんだ」
「出したら返された」
「何書いたの?」
「ほぼ何も」
澪が笑う。
「そりゃ返されるよ」
「先生にも言われた」
二人で昇降口を出た。
校門のところで、澪がスマホを取り出す。
画面を見て、足を止めた。
「四時半」
悠真も自分のスマホを見る。
四時三十一分だった。
「一分過ぎてる」
澪が悠真を見る。
「そこ?」
「四時半ではないだろ」
「四時半くらいって言ったじゃん」
「それなら入ってる」
「でしょ」
澪が笑った。
悠真も笑う。
昨日と同じ道を駅へ向かう。
途中で澪が言った。
「アイスどうする?」
「食べるの?」
「昨日そういう話だったじゃん」
「予定なくなったと思ってた」
「でも今、二人ともいるし」
悠真は少し考える。
「まあいいけど」
駅前のコンビニに入る。
澪は冷凍ケースの前で迷ってから、バニラのカップを取った。
「今日はチョコミントじゃないんだ」
「昨日、違うのにするって言ったから」
「そこは覚えてるんだ」
悠真はモナカを手に取る。
澪がそれを見る。
「やっぱりモナカ」
「たまたま」
「自分で選んだじゃん」
「そうだけど」
会計を済ませ、店を出る。
昨日座ったベンチには、誰もいなかった。
澪が足を止める。
「空いてる」
悠真もベンチを見る。
「四時半だからじゃない?」
「それ昨日、悠真が言ったんだけど」
「そうだっけ」
「そうです」
二人で座った。
澪がバニラの蓋を開ける。
悠真はモナカの袋を破る。
澪が自分のアイスを見る。
それから、悠真のモナカを見る。
「昨日と同じになったね」
「澪の違うじゃん」
「だからだよ」
悠真は昨日の会話を思い出す。
四時半くらい。
このベンチ。
澪は違うアイス。
自分はモナカ。
「……ほんとだ」
「すご」
澪は笑って、バニラを一口食べた。
「こういうこともあるんだね」
「昨日自分たちで言ったんだから、そりゃあるだろ」
「今日、一回なくなったのに?」
悠真はモナカをかじる。
「予定変わっただけじゃん」
「また戻ったけど」
「結果的に」
「便利な言葉」
澪が笑った。
悠真も笑った。
まだ、それだけだった。




