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第13話 進路希望

六時間目のホームルーム。


担任が前から紙を配り始めた。


「進路希望調査。金曜までに出してください」


悠真の机にも一枚置かれる。


名前。


文理選択。


卒業後の希望。


興味のある学部や分野。


最後に、現時点で考えていることを書く欄があった。


前の席から、颯太が振り返る。


「書くことないんだけど」


「未定でもいいって言ってたじゃん」


悠真が答えると、颯太は用紙を持ち上げた。


「全部未定でも?」


「先生に聞けよ」


「聞いたら考えろって言われそう」


「じゃあ考えろよ」


「冷たい」


少し離れた席では、真帆がもう何かを書き始めている。


澪は紙を机に置いたまま、シャープペンを回していた。



ホームルームが終わる。


悠真が鞄を閉じていると、澪が進路希望調査を持ってきた。


「佐倉、何書いた?」


「まだ」


「一個も?」


「名前」


澪が自分の紙を見せる。


こちらも、名前以外はほとんど空欄だった。


「同じじゃん」


「高梨も決まってないの?」


「うん」


澪は近くの机に腰を預ける。


「写真はちょっと面白いけど、進路にするかって言われると分かんないし」


悠真は、水族館と放課後の教室で撮られた写真を思い出した。


「始めたばっかだしな」


「そうなんだよね」


澪が用紙を見る。


「こういうのって、書いたらそのままにしなきゃいけない感じしない?」


「しないだろ」


「そう?」


悠真も自分の紙を持ち上げた。


「今の希望を書くやつじゃん。来年には変わってるかもしれないし」


澪が顔を上げる。


「じゃあ、変わってもいいってこと?」


「いいだろ」


「そっか」


澪は自分の席へ戻り、シャープペンを持った。


興味のある分野。


その欄に、


『写真・映像』


と書く。


悠真が横から見る。


「もう書くんだ」


「興味あるのは本当だし」


澪は書き終えてから、悠真の用紙を見る。


「佐倉は?」


「まだ分かんない」


「興味あるものも?」


「ないわけじゃないけど」


「じゃあ書けば?」


悠真は紙を見る。


「まだ決めきれてない」


「今のを書くだけでしょ」


「そうなんだけど」


「じゃあ何で書かないの」


悠真は用紙を机に置いた。


「……金曜まであるし」


澪が笑う。


「締切いっぱい使うんだ」


「使っていいから金曜なんだろ」


「それはそう」


澪はそれ以上言わなかった。





帰りは、颯太と真帆も一緒だった。


進路希望調査の話は、校門を出ても続いていた。


「俺、ほぼ未定で出そうかな」


颯太が言うと、真帆が隣から覗き込む。


「考える気ないじゃん」


「高校二年で決めろって言われても無理じゃない?」


「決めろとは書いてないでしょ」


澪が笑った。


「私もさっき似たようなこと言ってた」


真帆が澪を見る。


「何か書いた?」


「写真とか映像」


「いいじゃん」


「興味あるだけだけど」


「最初はそれでいいんじゃない?」


颯太も頷いた。


「じゃあ俺も興味あるもの探すわ」


悠真が聞く。


「金曜までに?」


「急に現実に戻すなよ」


真帆が笑った。



駅前で真帆と颯太が別れる。


悠真と澪は、そのまま改札へ向かった。


ロータリーに一台のバスが入ってくる。


澪が行先表示を読んだ。


「南台駅」


「どこ?」


「知らない」


「じゃあ俺も知らないよ」


「見てみよ」


バス停の横にある路線図を二人で覗く。


いくつもの停留所を通り、線は南台駅で終わっていた。


悠真が時刻表を見る。


「結構かかるな」


澪は路線図の一番下を見ていた。


「こういうの、終点まで乗ってみたくならない?」


「何しに?」


「何があるか見に」


「何もないかもしれないじゃん」


「それはそれで面白くない?」


バスの扉が開いた。


何人かが乗っていく。


悠真は澪を見る。


「乗る?」


「今日?」


「うん」


澪は少しだけバスを見たあと、首を振った。


「今日は帰る」


「じゃあ行くか」


二人は改札へ向かった。


数歩進んだところで、澪が一度だけ振り返る。


「今度、乗ってみたいな」


悠真もバスを見る。


「覚えてたら」


「またそれ」


澪が笑った。


バスの扉が閉まる。


二人はそのまま改札へ向かった。

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