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第12話 写真

昼休み。


真帆が澪の机の横でスマホを見ていた。


画面には、水族館で撮った悠真の写真が映っている。


説明板を読んでいる横顔だった。


「これ、高梨が撮ったんでしょ?」


真帆が聞く。


「うん」


「こういうのいいね。撮られてるって気づいてないやつ」


少し離れた席でパンを食べていた颯太も、画面を覗き込んだ。


「佐倉、魚見ろよ」


悠真は顔を上げる。


「見てたよ」


「写真だと説明しか見てない」


「一枚で判断するな」


澪が笑った。


真帆はスマホを澪に返した。


「高梨、写真撮るの好きなの?」


澪は少し考える。


「最近ちょっと面白いかも」


「人撮るの?」


「人も」


澪はもう一度、悠真の写真を見る。


「こういう、普通に何かしてるところが好きかも」


颯太が自分を指した。


「じゃあ俺の自然なところ撮ってよ」


「今?」


「今はだめ。撮るって知ったから自然じゃない」


悠真が言う。


「面倒な被写体だな」


「素材はいいよ」


「自分で言うな」


真帆が笑った。



澪は窓の外を見る。


午後の日差しが、教室の奥まで入っている。


「放課後の教室とか撮ってみたい」


真帆が窓側を見る。


「誰もいなくなったあと?」


「そう」


澪も教室を見回した。


「みんな帰ってて、外も暗くなり始めてるくらい」


窓側の一番後ろの席には、まだ光が当たっている。


澪がそこを指した。


「窓の近くだけちょっと明るくて、そこに誰か一人いるの」


颯太が聞く。


「誰かって?」


澪は少し考えてから、悠真を見る。


「佐倉とか」


「なんで俺」


「水族館でも一人で何か読んでたから」


「魚も見てたって」


澪は笑う。


「じゃあ佐倉が、あそこで本読んでる」


悠真も窓際の席を見る。


「夕方なら手元くらいは見えそう」


「でしょ」


澪は今度は教室の入口を見る。


「私はあっちから撮る」


悠真も振り返る。


入口からなら、窓際の席まで教室全体が入る。


「逆光にならない?」


「少し暗いくらいがいい」


「顔見えなくない?」


「顔を撮りたいわけじゃないし」


悠真が聞く。


「じゃあ何撮るの」


澪は少し考えた。


「その時、そこにいたって分かるやつ」


颯太が手を上げる。


「俺は?」


澪が答える。


「もう帰ってる」


「自然に消された」


真帆が笑った。


昼休み終了のチャイムが鳴る。


真帆が自分の席へ戻り、澪もスマホをしまった。


それで、その話は終わった。





放課後。


悠真はそのまま帰るつもりだった。


教室を出たところで、数学教師に呼び止められた。


先週出したプリントに名前を書き忘れていたらしい。


職員室へ行くと、それだけでは済まなかった。


教師がプリントの一か所を指す。


「ここも違う。直して」


悠真はその場で解き直した。


答えを書き終えると、教師がプリントを返してくる。


「ほかも一回見直して。明日もう一度出して」


「分かりました」


教室へ戻った時には、四十分近く経っていた。



ほとんど誰も残っていなかった。



悠真は自分の席に座り、鞄へプリントを入れようとした。


さっき教師に言われたことを思い出す。


ほかも一回見直して。


明日の朝でもよかった。


ただ、一枚だけだ。


ここで済ませてしまった方が楽だった。


悠真はプリントを机に広げた。


一問目から目を通す。



教室は、さっきより暗くなっていた。


数字が少し読みづらい。


悠真は顔を上げる。


窓側の一番後ろの席には、まだ夕方の光が残っていた。


プリントを持って、そちらへ移る。


椅子を引く。


机にプリントを広げる。


もう一度、一問目から読み始めた。



教室の入口で、足音が止まった。



悠真は気づかなかった。



シャッター音がした。



顔を上げる。


入口に澪が立っていた。


スマホを構えている。


「何してんの?」


「撮った」


澪は画面を見ながら教室へ入ってきた。


「まだいたんだ」


「先生に捕まってた」


「私も真帆待ってた」


「委員会?」


「うん。でも委員会の子と帰るって」


澪が悠真の隣まで来る。


悠真も画面を覗いた。



薄暗い教室。


窓際の一番後ろの席。


机の上には数学のプリント。


悠真は下を向いて、その文字を読んでいる。


入口から窓まで、誰もいない教室が長く写っていた。



澪はしばらく画面を見ていた。



「どう?」


悠真が聞く。


澪は少しだけ首を傾ける。


「思ってたより、いいかも」


「何が?」


「写真」


澪はもう一度画面を見る。


それからスマホをしまった。


「帰ろっか」


悠真もプリントを鞄に入れた。





駅へ向かう途中。


澪は何度か、さっき撮った写真を見ていた。


悠真が横から覗く。


「そんなにいい?」


「うん」


「顔ほぼ見えてないけど」


「だからいいのかも」


「水族館の時もそんな感じだったな」


澪が画面を見る。


「こういうの、もっと撮りたい」


「人が何か読んでる写真?」


「違う」


澪が笑った。


「普通にしてるところ」


「じゃあ颯太撮ってやれば」


「寝てたらね」


「本当に寝てたら起こせよ」


澪がまた笑う。


しばらく歩いてから、悠真が聞いた。


「今日、よく撮れたな」


「ね」


澪はそれだけ答えた。


スマホの画面を消して、ポケットにしまう。


二人はそのまま駅へ向かった。

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