第11話 水族館
「水族館行かない?」
金曜の放課後。
駅へ向かう途中で、澪が言った。
「急だな」
「次のデート」
悠真は澪を見る。
「もう考えてたの?」
「映画、遊園地、水族館。その中なら水族館」
「急にデートっぽいな」
「この前、本屋だったからね」
「楽しかっただろ」
「楽しかったけど、参考書買っただけじゃん」
澪が笑う。
「だから今度は、ちゃんとそれっぽいやつ」
悠真はスマホを出した。
「どこの?」
「もう調べるんだ」
「行くなら場所いるだろ」
「そういうとこ速いよね」
電車で四十分ほどの場所に決まった。
◇
翌日。
水族館は思ったより混んでいた。
中へ入って最初の大きな水槽の前で、澪がスマホを取り出す。
「写真撮ろ」
「水槽?」
「私たち」
「なんで」
「デートだから」
悠真は少し迷ったが、澪の横へ並んだ。
「もうちょっとこっち」
肩が触れる。
澪がシャッターを切った。
すぐに画面を見て笑う。
「何」
「佐倉、目」
悠真も覗く。
片方だけ半分閉じていた。
「撮り直そう」
「これは残す」
「なんで」
「記念」
二枚目は普通に撮れた。
そのまま順路を進む。
エイ。
クラゲ。
ペンギン。
悠真は水槽を見るたび、横の説明板にも目を通した。
途中で、澪が気づく。
「佐倉って説明ちゃんと読むね」
「書いてあるから」
「私は魚しか見てなかった」
「あとで何見たか分かんなくなるだろ」
「別にテストないよ?」
「そういう問題じゃない」
澪が笑った。
少しして、シャッター音がした。
悠真が振り向く。
「今撮った?」
「撮った」
「何を」
「佐倉」
澪が画面を見せる。
水槽の前で、説明板を読んでいる悠真の横顔だった。
「何これ」
「水族館来て説明読んでる佐倉」
「魚も見てたよ」
「でも写真だと全然見てない」
「消して」
「やだ」
澪はスマホをしまった。
◇
昼過ぎ。
館内のカフェで休憩する。
澪はクリームソーダ、悠真はアイスコーヒー。
澪が撮った写真を見返していた。
水槽。
クラゲ。
ペンギン。
最初に撮った二人の写真。
「こっちはちゃんとデートっぽい」
澪が画面を見せる。
「何その判定」
「成功してる」
「一枚目は?」
「失敗」
「消せよ」
「面白いから残す」
写真を送っていくうちに、説明板を読んでいる悠真の写真が出てきた。
澪の指が止まる。
「私、これ好きかも」
悠真も画面を見る。
「なんで」
「分かんない」
「魚ほとんど写ってないじゃん」
「ほんとだ」
澪は少し笑った。
「でも今日っぽい」
「どこが」
「佐倉、ずっとこうだったし」
そう言って、その写真にお気に入りをつける。
悠真が聞いた。
「二人で撮ったやつじゃないの?」
「何が?」
「お気に入り」
澪は少し考えた。
「あれはデートっぽい写真」
「こっちは?」
「今日の写真」
悠真には、その違いがよく分からなかった。
◇
夕方。
水族館を出て、駅へ向かう。
澪が横から聞いた。
「ちゃんとデートだった?」
「まだ気にしてたの?」
「確認」
悠真は少し考えた。
水族館に来た。
写真を撮った。
一緒に昼を食べた。
たぶん十分、それらしかった。
「デートだったんじゃない」
「佐倉は楽しかった?」
「楽しかったよ」
澪が悠真を見る。
「水族館が?」
悠真は少しだけ考えた。
「それも」
「それも?」
「高梨と来たのが」
澪が黙った。
悠真は前を向く。
言ってから、少し言いすぎた気がした。
数歩して、澪が笑う。
「そっか」
それだけだった。
夜。
澪から何枚か写真が送られてきた。
水槽の前で撮った二人。
クラゲ。
ペンギン。
最後に、説明板を読んでいる悠真。
その一枚だけ、
『今日のやつ』
と書いてあった。




