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第11話 水族館

「水族館行かない?」


金曜の放課後。


駅へ向かう途中で、澪が言った。


「急だな」


「次のデート」


悠真は澪を見る。


「もう考えてたの?」


「映画、遊園地、水族館。その中なら水族館」


「急にデートっぽいな」


「この前、本屋だったからね」


「楽しかっただろ」


「楽しかったけど、参考書買っただけじゃん」


澪が笑う。


「だから今度は、ちゃんとそれっぽいやつ」


悠真はスマホを出した。


「どこの?」


「もう調べるんだ」


「行くなら場所いるだろ」


「そういうとこ速いよね」


電車で四十分ほどの場所に決まった。





翌日。


水族館は思ったより混んでいた。


中へ入って最初の大きな水槽の前で、澪がスマホを取り出す。


「写真撮ろ」


「水槽?」


「私たち」


「なんで」


「デートだから」


悠真は少し迷ったが、澪の横へ並んだ。


「もうちょっとこっち」


肩が触れる。


澪がシャッターを切った。


すぐに画面を見て笑う。


「何」


「佐倉、目」


悠真も覗く。


片方だけ半分閉じていた。


「撮り直そう」


「これは残す」


「なんで」


「記念」


二枚目は普通に撮れた。



そのまま順路を進む。


エイ。


クラゲ。


ペンギン。


悠真は水槽を見るたび、横の説明板にも目を通した。


途中で、澪が気づく。


「佐倉って説明ちゃんと読むね」


「書いてあるから」


「私は魚しか見てなかった」


「あとで何見たか分かんなくなるだろ」


「別にテストないよ?」


「そういう問題じゃない」


澪が笑った。


少しして、シャッター音がした。


悠真が振り向く。


「今撮った?」


「撮った」


「何を」


「佐倉」


澪が画面を見せる。


水槽の前で、説明板を読んでいる悠真の横顔だった。


「何これ」


「水族館来て説明読んでる佐倉」


「魚も見てたよ」


「でも写真だと全然見てない」


「消して」


「やだ」


澪はスマホをしまった。





昼過ぎ。


館内のカフェで休憩する。


澪はクリームソーダ、悠真はアイスコーヒー。


澪が撮った写真を見返していた。


水槽。


クラゲ。


ペンギン。


最初に撮った二人の写真。


「こっちはちゃんとデートっぽい」


澪が画面を見せる。


「何その判定」


「成功してる」


「一枚目は?」


「失敗」


「消せよ」


「面白いから残す」


写真を送っていくうちに、説明板を読んでいる悠真の写真が出てきた。


澪の指が止まる。


「私、これ好きかも」


悠真も画面を見る。


「なんで」


「分かんない」


「魚ほとんど写ってないじゃん」


「ほんとだ」


澪は少し笑った。


「でも今日っぽい」


「どこが」


「佐倉、ずっとこうだったし」


そう言って、その写真にお気に入りをつける。


悠真が聞いた。


「二人で撮ったやつじゃないの?」


「何が?」


「お気に入り」


澪は少し考えた。


「あれはデートっぽい写真」


「こっちは?」


「今日の写真」


悠真には、その違いがよく分からなかった。





夕方。


水族館を出て、駅へ向かう。


澪が横から聞いた。


「ちゃんとデートだった?」


「まだ気にしてたの?」


「確認」


悠真は少し考えた。


水族館に来た。


写真を撮った。


一緒に昼を食べた。


たぶん十分、それらしかった。


「デートだったんじゃない」


「佐倉は楽しかった?」


「楽しかったよ」


澪が悠真を見る。


「水族館が?」


悠真は少しだけ考えた。


「それも」


「それも?」


「高梨と来たのが」


澪が黙った。


悠真は前を向く。


言ってから、少し言いすぎた気がした。


数歩して、澪が笑う。


「そっか」


それだけだった。



夜。


澪から何枚か写真が送られてきた。


水槽の前で撮った二人。


クラゲ。


ペンギン。


最後に、説明板を読んでいる悠真。


その一枚だけ、


『今日のやつ』


と書いてあった。

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