介入
そんな......
たとえ、隙をついていたとはいえ、こうもあっさりハイパー隊員を一掃してしまうなんて。
すると、コートに蓮さんが入場する。
静まり返った会場に、蓮の足音だけが硬く響く。
「よう、ワット! 良い模擬戦の最中に介入し、選手を全員ぶっ倒すとか、ほんと嫌なことしてくれるじゃねーか。これは倍にして返してやるよ!」
蓮が愛用のギアを起動させると、その全身から剥き出しの殺気が立ち昇った。対するマイは、血に濡れた扇を優雅に閉じ、退屈そうに首を傾げる。
「あなた、なかなか筋があるみたいね。少しは楽しめそうじゃない」
刹那――音も、予備動作もなかった。
ドォォォォォォォン!!
激突の衝撃波が、五百席の観客席を震わせた。蓮の一撃を、マイは扇の親骨一本で受け止めている。
(なっ……あの蓮さんの攻撃を、片手で!?)
渚が息を呑む暇もなかった。マイの動きは、もはや「移動」ではなく「現象」だった。
シュッ、パシィィィィンッ!
マイの扇が空気を切り裂くたび、漆黒の斬撃が蓮の周囲を包囲する。
「どうしたの? 口ほどでもないわね」
「――くっ!」 蓮は防戦一方だった。
ガキィィィン! ゴッ、バキッ!!と、
重苦しい打撃音と金属音が交互に響く。
蓮の防御を嘲笑うかのように、マイの扇は正確に、かつ容赦なく蓮の装甲を削り取っていく。
「あははっ! もっと踊りなさいよ!」
マイの猛攻は苛烈を極めた。ドシュッ!という音と共に、蓮の肩から火花が散る。
圧倒的。ハイパー隊員すら子ども扱いしたその力は、蓮をさえも絶望の淵へと追い詰めていくかに見えた。
しかし、床を滑るように距離を取った蓮が、低く笑った。
「……はは、流石は幹部様だ。これじゃ、出し惜しみしてたら死ぬな」
蓮が自身のギアの深層にあるスイッチに指をかけた。
「『リミッター解除』……起動!」
キュォォォォォォォン!! 鼓膜を劈くような高周波の駆動音が響き渡り、蓮の体から噴き出す熱気が蜃気楼のように周囲を歪ませた。
その瞳に、青白い炎が宿る。
「……行くぜ」
ドッ!! 踏み込みの一歩で、強化合金の床が粉々に砕け散った。
次の瞬間、蓮の拳がマイの眼前に迫る。 ガガガガガガッ!! 目にも止まらぬ連撃の応酬。先ほどまで一方的に攻めていたマイの表情から、余裕が消えた。
キィィィィィン! バシュゥゥッ!
蓮の加速した一撃がマイの頬をかすめ、漆黒の衣を切り裂く。マイもまた、扇を全開にして空間そのものを歪めるような重圧で応戦する。
二人の戦いは、もはや「音」が後から追いかけてくる領域だった。
ズズズンッ!と地響きがしたかと思えば、次の瞬間には天井付近で火花が散り(パシィィィン!)、さらに次の瞬間にはコートの端で衝撃波が炸裂する(ドォォォォォッ!)。
五分五分。 最強の侵略者と、横浜の牙。二つの「怪物」がぶつかり合うたびに、浜松支部の誇る巨大バトルコートが少しずつ崩壊していく。
だが、唐突にその熱量は収束した。 蓮の拳と、マイの扇が互いの喉元を狙ったまま、ぴたりと静止する。
……シィィィィィ。 過熱したギアから吐き出される蒸気が、二人の間に漂った。
「ふぅん……。まさか辺境の支部に、私とここまでやり合える人間がいるなんてね」
マイがふいにと、殺気を収めて扇を畳んだ。
「……あーあ、つまんない。これ以上やると、せっかくの『うなぎ』が冷めちゃうわ」
蓮は構えを解かない。肩で息をしながらも、鋭い眼光をマイに向けたままだ。
「逃げるつもりか、ワット?」
「逃げる? まさか。……ただ、少し予定を変えようと思って」
マイは優雅に翻り、コートの出口へと歩き出す。そして、去り際に振り返り、会場にいる全ての隊員に聞こえるような冷徹な声で告げた。
「聞きなさい、ストロントの羽虫共。……今夜、浜松は我がワット共和国が占領する。逆らう者はすべて、さっきの四人と同じように『掃除』してあげる」
「なんだと……っ!?」
「今夜、浜松全域を襲撃するわ。……せいぜい、最後の晩餐を楽しんでおくことね」
フッ、とマイの姿がかき消えた。 あとに残されたのは、半壊したコートと、あまりにも重すぎる沈黙。
浜松強化合宿二日目。 ただの合同演習だったはずの場所は、いま、最前線の戦場へと変わろうとしていた。
「……渚、聞いたか」
蓮がリミッターを解除した腕を震わせながら、観客席にいる渚を仰ぎ見た。
「今夜だ。……地獄が始まるぞ」
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