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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第四章 浜松合宿編
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介入

 そんな......


 たとえ、隙をついていたとはいえ、こうもあっさりハイパー隊員を一掃してしまうなんて。


 すると、コートに蓮さんが入場する。


 静まり返った会場に、蓮の足音だけが硬く響く。


「よう、ワット! 良い模擬戦の最中に介入し、選手を全員ぶっ倒すとか、ほんと嫌なことしてくれるじゃねーか。これは倍にして返してやるよ!」 


 蓮が愛用のギアを起動させると、その全身から剥き出しの殺気が立ち昇った。対するマイは、血に濡れた扇を優雅に閉じ、退屈そうに首を傾げる。


「あなた、なかなか筋があるみたいね。少しは楽しめそうじゃない」 


 刹那――音も、予備動作もなかった。


 ドォォォォォォォン!! 


 激突の衝撃波が、五百席の観客席を震わせた。蓮の一撃を、マイは扇の親骨一本で受け止めている。


(なっ……あの蓮さんの攻撃を、片手で!?)


 渚が息を呑む暇もなかった。マイの動きは、もはや「移動」ではなく「現象」だった。


 シュッ、パシィィィィンッ!


 マイの扇が空気を切り裂くたび、漆黒の斬撃が蓮の周囲を包囲する。


「どうしたの? 口ほどでもないわね」


「――くっ!」 蓮は防戦一方だった。

ガキィィィン! ゴッ、バキッ!!と、

重苦しい打撃音と金属音が交互に響く。


 蓮の防御を嘲笑うかのように、マイの扇は正確に、かつ容赦なく蓮の装甲を削り取っていく。

「あははっ! もっと踊りなさいよ!」 

 

 マイの猛攻は苛烈を極めた。ドシュッ!という音と共に、蓮の肩から火花が散る。


 圧倒的。ハイパー隊員すら子ども扱いしたその力は、蓮をさえも絶望の淵へと追い詰めていくかに見えた。 


 しかし、床を滑るように距離を取った蓮が、低く笑った。

「……はは、流石は幹部様だ。これじゃ、出し惜しみしてたら死ぬな」


 蓮が自身のギアの深層にあるスイッチに指をかけた。

「『リミッター解除アンリミテッド・ドライブ』……起動!」


 キュォォォォォォォン!! 鼓膜を劈くような高周波の駆動音が響き渡り、蓮の体から噴き出す熱気が蜃気楼のように周囲を歪ませた。


 その瞳に、青白い炎が宿る。


「……行くぜ」


 ドッ!! 踏み込みの一歩で、強化合金の床が粉々に砕け散った。


 次の瞬間、蓮の拳がマイの眼前に迫る。 ガガガガガガッ!! 目にも止まらぬ連撃の応酬。先ほどまで一方的に攻めていたマイの表情から、余裕が消えた。


 キィィィィィン! バシュゥゥッ! 


 蓮の加速した一撃がマイの頬をかすめ、漆黒の衣を切り裂く。マイもまた、扇を全開にして空間そのものを歪めるような重圧で応戦する。


 二人の戦いは、もはや「音」が後から追いかけてくる領域だった。


 ズズズンッ!と地響きがしたかと思えば、次の瞬間には天井付近で火花が散り(パシィィィン!)、さらに次の瞬間にはコートの端で衝撃波が炸裂する(ドォォォォォッ!)。


 五分五分。 最強の侵略者と、横浜の牙。二つの「怪物」がぶつかり合うたびに、浜松支部の誇る巨大バトルコートが少しずつ崩壊していく。


 だが、唐突にその熱量は収束した。 蓮の拳と、マイの扇が互いの喉元を狙ったまま、ぴたりと静止する。 


 ……シィィィィィ。 過熱したギアから吐き出される蒸気が、二人の間に漂った。


 「ふぅん……。まさか辺境の支部に、私とここまでやり合える人間がいるなんてね」


 マイがふいにと、殺気を収めて扇を畳んだ。


「……あーあ、つまんない。これ以上やると、せっかくの『うなぎ』が冷めちゃうわ」


 蓮は構えを解かない。肩で息をしながらも、鋭い眼光をマイに向けたままだ。


「逃げるつもりか、ワット?」


「逃げる? まさか。……ただ、少し予定を変えようと思って」


 マイは優雅に翻り、コートの出口へと歩き出す。そして、去り際に振り返り、会場にいる全ての隊員に聞こえるような冷徹な声で告げた。


「聞きなさい、ストロントの羽虫共。……今夜、浜松は我がワット共和国が占領する。逆らう者はすべて、さっきの四人と同じように『掃除』してあげる」


「なんだと……っ!?」


「今夜、浜松全域を襲撃するわ。……せいぜい、最後の晩餐を楽しんでおくことね」


 フッ、とマイの姿がかき消えた。 あとに残されたのは、半壊したコートと、あまりにも重すぎる沈黙。


 浜松強化合宿二日目。 ただの合同演習だったはずの場所は、いま、最前線の戦場へと変わろうとしていた。


「……渚、聞いたか」


 蓮がリミッターを解除した腕を震わせながら、観客席にいる渚を仰ぎ見た。


「今夜だ。……地獄が始まるぞ」

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