7秒の壁
「――訓練生、山上渚。前へ」
巨大なドーム状の訓練室に、無機質なアナウンスが響き渡る。
私は震える足で、白線の引かれた中央のサークルへと進み出た。
周囲の観覧席からは、刺すような視線が降り注いでいる。
同じ学校の佐伯くんや如月先輩だけじゃない。見たこともない他校の制服を着た生徒たちが、腕を組み、冷ややかな目で私を見下ろしていた。
「おい、あれが日本学園の『ランクS』か? 随分と細いじゃねえか」
「適性だけ高くても、制御できなきゃただの不発弾だろ」
聞こえてくるヒソヒソ話が、私の胸をざわつかせる。
「山上、今日のメニューは『三パーセント出力の維持』だ。一ミリでも超えれば不合格だと思え」
教官席に座る技術官の声は、医務室の時よりもさらに冷たかった。
「……はい」
私はゆっくりと手を伸ばし、重厚な金属のグリップを握りしめた。
その瞬間、氷のような冷たさが指先から流れ込み、私の体内のエネルギーが逆流を始める。
――カチッ。
胸の奥で、あの『黄金の歯車』が獲物を見つけたように激しく回転し始めた。
(……静かに、お願い、お願いだから静かに回って……!)
私は必死に歯車を抑え込もうとしていた。けれど、適性Sという巨大なエンジンは、私の不慣れな制御を嘲笑うかのように、一気に熱量を跳ね上げていった。
「エネルギー充填、十……三十……五十……! おい、出力が止まらない、止まらないぞ!」
「山上!リミッターを抑えろ! ギアが自壊する!」
モニターを見ていた如月先輩からの叫びがかすかに聞こえる。
ギアを握る私の右腕が、内側から爆発するような熱に包まれた。ノーマルの装甲が、過剰な負荷に耐えきれず、ミシミシと悲鳴を上げる。
「……っ、あ、あああああああ!」
ドォォォォォォォン!!
凄まじい衝撃波が訓練場を駆け抜け、周囲の生徒たちが顔を覆って後退した。
煙が晴れた中心で、私は膝をついていた。
握っていたノーマル・ギアは、たった数秒の起動で真っ赤に焼けただれ、使い物にならなくなってしまっていた。
「……出力、計測不能。継続時間……七秒」
技術官の溜息混じりの声が、冷たく響く。
三パーセントどころか、百パーセントを軽く超えてしまい、そして自爆したのだ。
「……はぁ、はぁ……」
全身の力が抜け、視界がチカチカと明滅する。
たった七秒。たった七秒で、私の身体はまた「空っぽ」になってしまった。
「……ふん。期待外れだな」
他校の生徒たちの、冷笑と失望の混じった囁き。
けれど、私は見逃さなかった。
遠くで見守っていた透斗と麻奈。
黄金の輝きを纏うハイパー隊員である二人が、今までに一度も見たこともないような「焦燥」と、微かな「恐怖」の色を瞳に宿して、私を見つめていたのを。




