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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第三章 スーパー隊員編
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決勝へ

 新宿の廃墟を赤く染めていた夕日が、重厚なビル群の向こう側へとゆっくりと沈んでいく。それと同時に、フィールド全域に予選終了を告げる重厚なブザー音が、勝利と敗北の終わりを告げるように鳴り響いた。


『――そこまで! 一次予選、全行程終了。これより、ポイント集計に基づき決勝トーナメント進出者を発表する!』


 新宿の空を切り裂くようにホログラム・モニターが浮かび上がり、生き残った隊員たちの名前が次々とリストアップされていく。


 その最上段。他を寄せ付けない圧倒的なポイント数と共に刻まれていたのは、他でもない私の名前――山上渚だった。


「……ふぅ。なんとか、残れたみたい」


 私は『ホワイト・アウト』を静かに鞘に収め、深く、長く息を吐き出した。


 全身を襲うのは、かつてのような「暴走」による焼き付くような疲労ではなく、神経を針の先のように研ぎ澄ませ続けたことによる、心地よい倦怠感だ。


 蓮さんとの修行で学んだ「力を消す」戦い方は、私の肉体への負荷を劇的に減らし、これまで以上に長く戦うことを可能にしていた。


 転送ゲートを通り、横浜支部のメインホールへと戻ると、そこには既に予選を終えた出場者と、それを見届けようと集まったハイパー隊員たちの熱気が渦巻いていた。


「渚! お疲れ様! 本当にすごかったんだから!」


 麻奈が観覧席から駆け寄ってきて、私の肩を抱きしめる。ハイパー隊員として後輩たちの予選を見守っていた彼女は、親友の圧倒的な快進撃を自分のこと以上に喜び、興奮で瞳を輝かせていた。


「ああ。お前のあの『いなし』、モニターで見てた全員が黙り込んでたぜ。……如月先輩や佐伯まで手玉に取るなんて、マジで『怪物』だな。お前、一週間で何があったんだよ」


 透斗も隣で呆れたように笑いながら、私のことを褒める。その背後には、ポイント不足で予選落ちした隊員たちの、畏怖と羨望の入り混じった視線があった。


 もはや「適性Sの素人」と私を揶揄する声は、どこにも聞こえなかった。


 だが、その熱狂を切り裂くように、一人の男が私たちの前に歩み寄ってきた。


「……ハッ。いいスイングだったじゃねえか、山上」


 我妻虎徹先輩だ。ハイパー候補の筆頭として、このスーパー隊員大会の「絶対王者」と目される彼が、不敵な笑みを浮かべて私を見下ろした。先輩の背後には、あの巨大な盾が夕日の名残を受けて鈍く輝いている。


「お前が決勝まで上がってくるのは分かってたぜ。……だろ? このトーナメント表を見てみろよ」


 先輩が指し示したホログラム。そこには、私が勝ち進んだ先に、必ず彼とぶつかるように組まれた「宿命の山」が描かれていた。


 私は、その表を真っ直ぐに見据え、一歩も引かずに言い放った。


「今度こそ私はあなたに勝ってみせます。この前の屈辱は絶対に晴らします」


 私の言葉には、一週間前のような焦りも、自分への不信感もなかった。ただ、研ぎ澄まされた刃のような鋭い決意だけがそこにあった。


 虎徹先輩は満足そうに鼻を鳴らし、私の横を通り過ぎる際、耳元で低く、けれど確かな挑発を囁いた。


「お前の『いなし』が、俺の『捕球』にどこまで通じるか……。楽しみにしてるぜ、三振王」


 先輩の背中を見送りながら、私は自分の右手を強く、白くなるほどに握りしめた。


 前は勝てなかった。自分の力に振り回され、盾一枚を崩せずに光となって逃げ出すしかなかった。


 けれど、修行を乗り越え、成長できた今なら行ける気がする。この手のひらに残る、蓮さんに叩き込まれたあの「静かな感覚」があれば。


 ホールの喧騒が、今は遠い国の出来事のように聞こえる。私の世界には今、あの巨大な盾をどう切り裂き、その裏にある真実にどう辿り着くか、その一点しかなかった。


「今度こそ虎徹先輩、あなたを倒してみせます」


 独り言のように呟いた私の瞳には、朝露のような冷たさと、火山のような熱さが同居していた。


 決勝トーナメント。そこは私が「不完全な適性S」を卒業し、本物の戦士へと至るための、最後の階段だ。

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