再戦
三人の隊員を光の粒子へと変えた後、私は崩れかけた雑居ビルの三階へと跳び上がった。
視界の端に浮かぶホログラム・モニターには、参加者リストが刻々と更新され続けている。数百名いた名前は、開始からわずか数分で既に一割以上も赤く染まり、脱落を示していた。
新宿の街は、今や巨大な狩り場と化している。いたるところで火花が散り、ギアが放つ高周波が反響し合っていた。その騒乱の中、私は自分の方へ向かってくる、二つの「知っている」鼓動を感じた。
(……この鋭い振動、佐伯くん。……それに、この精密で冷たいプレッシャーは……如月先輩!)
瓦礫を蹴る乾いた音。路地の奥から現れたのは、高周波振動剣『リッパー・エッジ』を構えた佐伯海斗と、数枚の追従型ビットを浮かべた如月凛だった。
「……見つけたぜ、山上。一週間、蓮さんのところで油を売ってたわけじゃなさそうだな」
佐伯くんは、不敵な笑みを浮かべながらも、その瞳には隠しきれない驚愕が宿っていた。
彼はスナイパーの実羽さんと同じく、先ほどの私の「無駄のない動き」を遠くから目撃し、戦慄していたのだ。
「渚。……そのギアの波形、前よりずっと安定しているわね。……でも、ここからは容赦しないわよ。私も『適性S』のデータがもっと欲しいの」
如月先輩が冷静に告げると、彼女のビットが私を包囲するように展開される。かつての恩師であり、組織の闇を共有した同志。
けれど今は、この予選を勝ち抜くための「敵」だ。
「佐伯くんも如月先輩も前よりずっと強くなってる。でもそれは私もおなじ。私はもっともっと強くなって、麻奈たちを守りたいんだ!」
私の宣言と同時に、二人が動いた。
佐伯くんが地を蹴り、赤い残像を残しながら肉薄する。同時に如月先輩のビットが、一ミリの狂いもなく私の予測進路へレーザーを照射した。計算され尽くした、回避不能の十字砲火。
けれど、今の私には、その「完璧な攻撃」の中にさえ、緩やかな川の流れのような「隙間」が見えていた。
私は『ホワイト・アウト』を抜かず、まず一歩、佐伯くんの踏み込みの内側へと入り込んだ。
「避ける」のではない。彼の剣が最高速度に達し、軌道が固定されたその刹那、私は刀身の側面にそっと指を添えるようにして、その力のベクトルを強引に書き換えた。
キィィィィィン!
火花が散る。佐伯くんの全力の突進は、私の「添え手」によって如月先輩のビットへと誘導された。
「な……俺の『リッパー・エッジ』を、ただの添え手で流したのか!?」
「……信じられない。計算上、今のタイミングは回避不能のはずなのに……!」
二人の連携が、内部から瓦解した瞬間。私は初めて、白銀のギアを抜き放った。
抜刀の衝撃波が周囲の空気を爆ぜさせ、如月先輩のビットを一瞬で機能停止に追い込む。そのまま流れるような動作で、私は二人の防護服の胸元――『核』の数センチ手前で、白銀の刃をピタリと止めた。
もし、これが本物の戦場なら。もし、私が蓮さんに「力を消す技術」を教わっていなければ。二人の体は今頃、制御不能な白銀の閃光に飲み込まれ、深刻なダメージを負っていただろう。
けれど、今の私は自分の牙を、完全に支配している。
「ありがとう、2人とも。私はもっともっと強くなるよ! じゃあね!」
私は最高の笑顔を見せると、その瞬発力を活かして二人の間をすり抜け、ポイント・チップだけを鮮やかに奪い取っていた。
驚愕で立ち尽くす佐伯くんと如月先輩を残し、私は白銀の閃光を纏って、再び戦場へと飛び出した。
背後で佐伯くんの「待てよ、渚あぁぁ!」という叫び声が聞こえる。その声が、今は少しだけ心地よかった。
私はもう、誰かに守られるだけの少女じゃない。
親友を守り、ライバルたちを導く、本物の「適性S」として。
新宿の廃墟を駆ける私の足取りは、羽が生えたように軽く、そしてどこまでも鋭かった。
面白いと思ったら、下の☆☆☆☆☆から応援評価をお願いします!励みになります!




