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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第三章 スーパー隊員編
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師の優しさ

 実羽さんが夜風に紛れるように訓練場を去り、重い鉄の扉が閉まる音が響いた。


 広い訓練場に残されたのは、私と蓮さんの二人だけ。


「……さて、居残り練習は終わりだ。さっさと帰って寝ろ」


 蓮さんが背を向けようとしたその時、私は動かない足で一歩、彼の方へ踏み出した。

 

「……蓮さん。私……一人で、戦わなきゃいけないんです」


 その言葉が口から出た瞬間、堪えていた感情が溢れ出した。


 如月先輩が消えた時の恐怖。十条議員という信じられない裏切り。そして、大好きな麻奈たちに嘘をつき続ける罪悪感。


「如月先輩が、あいつ、十条議員が裏切り者だって……ワットを操ってるのはストロントのトップだって教えてくれたんです。麻奈たちには言えませんでした。あんなに苦しんで戦ってきた三人を、これ以上汚したくなくて……。でも、私一人じゃ、怖くて……っ!」


 言葉にならずに震える私を、蓮さんは黙って見つめていた。


 厳しい説教が来る。あるいは「甘えるな」と突き放される。そう身構えて目を閉じた私の頭に、不意に大きな、熱い掌が置かれた。


「……よくここまで、一人で耐えられたな」


 蓮さんの声は、驚くほど低く、優しかった。

 

 彼は大きな手で、私の乱れた髪を無造作に、けれど慈しむようにゆっくりと撫でた。


「あの三人のために、自分一人で泥をかぶる決めたか。……馬鹿なガキだ。だが、その『馬鹿』を通すために、お前はあんなに必死に牙を研いでたんだな」


 頭から伝わってくる、確かな人間の体温。


 「一人じゃない」と言ってもらえたような気がして、私はもう、我慢することができなかった。


「……ぅ、ぁ……っ、うわあああああああん!!」


 私は子供のように声を上げて泣き崩れた。蓮さんのシャツを掴み、鼻を鳴らしながら、たった数日で背負い込んでしまった世界の重さを、涙と一緒に吐き出した。


 蓮さんは何も言わず、私の気が済むまでその手を離さなかった。


 夜明け前の訓練場。


 泣きじゃくる私の影を、蓮さんの大きな影が包み込んでいる。

 孤独な戦士になると決めたけれど。


 今日だけは、この不器用な師匠の優しさに甘えてもいいのだと、黄金の歯車が静かに囁いていた。


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