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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第三章 スーパー隊員編
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迷い

 三人と別れた私は、夜の静寂に包まれた第14訓練場にいた。


 壁に寄りかかり、目を閉じている蓮さんの前で、私は泥まみれになりながら竹刀を振るい続けていた。


「……遅い。迷いが剣に出ているぞ、山上」


 蓮さんの木剣が、私の脇腹を容赦なく打つ。

 ギアを使わない生身の体には、一撃ごとに鋭い痛みが走り、呼吸が乱れる。


「っ、はぁ、はぁ……! もう一度、お願いします!」


 私は何度も立ち上がり、蓮さんの懐を狙う。


 十条を一人で止めるという決意。それが焦りとなり、私の動きを硬くさせていた。蓮さんに教わった「力を消す」感覚。頭では分かっていても、いざ蓮さんの圧倒的な圧力を前にすると、どうしても右手に力が入ってしまう。


「お前が背負い込んでいる『何か』が、お前の足を止めている。……そんなに重いものを抱えたまま、空気に溶け込めると思っているのか?」


 蓮さんの鋭い指摘に、心臓が跳ねた。


 親友に嘘をつき、一人で闇に立ち向かおうとする孤独。それが今の私の「力み」の正体だった。


 夜通しの特訓。夜明けが近づき、意識が朦朧としてきたその時だった。

 

 ふっと、力が抜けた。


 「一人でやらなきゃ」という気負いが、極限の疲労によって削ぎ落とされた瞬間。


 私の竹刀が、蓮さんの木剣の軌道を、吸い込まれるように滑り抜けた。


 カツン。


 乾いた音が響く。私の竹刀の先が、初めて蓮さんの胴を掠めた。


「……。ようやく一歩目か」


 蓮さんは木剣を引き、わずかに目を見開いた。

 完璧ではない。威力もない。けれど、今のあの一撃だけは、確かに蓮さんの「意識の隙間」を突いていた。


「……今のは、良かったわよ。でも、次は当たらないわよ」


 高いキャットウォークから見ていた実羽さんが、冷たく、でも少しだけ認めたような声を投げる。


 私はその場に膝をつき、激しく肩で息をした。


 良くなったのは、ほんの一瞬。それを「自分のもの」にするには、まだ気が遠くなるほどの反復と、この孤独な心との折り合いが必要だ。


「……まだ、これじゃダメだ。虎徹先輩の盾は、今の何倍も重い……。でも、蓮さん。私、少しだけ『道』が見えた気がします」


 私は震える手で竹刀を握り直し、ゆっくりと立ち上がった。

 天才的な才能(適性S)があっても、一歩ずつしか進めない。その残酷で確かな現実を噛み締めながら、私は再び、夜明け前の暗闇へと踏み込んだ。

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