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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第三章 スーパー隊員編
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圧倒

「……麻奈まな? 逃げて……早く……っ!」


 私は、肺に残ったわずかな空気を絞り出して叫んだ。


 だが、漆黒の刺客は既に獲物を切り替えていた。背後を見せた私を見捨て、新たな不確定要素である麻奈へと、影のような速さで肉薄する。


 その距離、わずか三メートル。刺客の持つ漆黒のブレードが、図書室の冷たい空気を切り裂き、麻奈の細い首筋へと吸い込まれていく。


 ガギィィィィィィィィィィン!!


 図書室全体を揺らすような、硬質で重厚な金属音が鼓膜を叩いた。


 吹き飛ばされたわけではない。麻奈は、黄金のギア『剛鉄ごうてつ』を瞬時に展開。巨大な大剣の腹を盾にするようにして、刺客の全力の刺突を、わずか数センチの差で完全に止めていた。


「……渚、下がってて。ここは私がやるから」


 麻奈の声は、驚くほど冷静だった。学校でテストの点数を教え合う時のような、いつもの落ち着いたトーン。


 けれど、その足元からは、地響きを伴う圧倒的なプレッシャーが静かに、確実に広がっている。


「……ハイパー隊員か。邪魔をするなら、まとめて塵にしてやる!」


 刺客が一度跳ね起き、重力を無視したような動きで壁を蹴った。漆黒の軌跡が、上段、右、左と、視認不可能な速度で麻奈を襲う。


 一撃一撃が岩をも砕く威力を秘めた連撃。私なら、最初の一撃さえ防げずに細切れにされていただろう。


 だが、麻奈は一歩も動かない。黄金の大剣をまるで自分の手足のように軽々と操り、最小限の返しだけでその全てを弾き飛ばしていく。


 カン、カカァン! ガギィィン!!


 火花が飛び散り、散乱した本が熱風で舞い上がる。


「……無駄だよ。あなたの剣のリズム、もう覚えたから」


 麻奈の瞳が黄金色に輝いた。それは適性Sの暴走する光ではない。鍛え上げられた戦士が放つ、冷徹な「観測」の光だ。


「なめるなああああ!!」


 刺客が絶叫し、自らのギアを過負荷オーバーロードさせた。漆黒の刃が赤黒い光を帯び、空間そのものを焼き切らんとする勢いで振り下ろされる。


 刺客の持つ必殺の一撃。対する麻奈は、ゆっくりと腰を落とした。巨大な大剣の切っ先を地面に沈め、全身の力を「無」にする。


「――『剛鉄・重心崩し』」


 麻奈が動いた。力任せに振るのではない。相手の赤黒い嵐が最高速度に達し、もはや軌道を変えられないその瞬間、麻奈は大剣の重さを「乗せる」ように、下から上へとすくい上げた。


 バキィィィィィィィィィィン!!


 刺客の漆黒の剣が、麻奈の圧倒的な質量に耐えきれず、根元から粉々に砕け散る。一撃。ただの一撃で、あれほど私を追い詰めた怪物の牙が、無惨に奪われた。


「バカな……! 私の最高出力を、ただのカウンターで……っ!?」


 刺客の体は、自分の放った力の反動と麻奈の衝撃に耐えきれず、大きく後退した。麻奈は追撃することなく、静かに剣を肩に担ぎ直す。


「……今日はここまでにしなよ。応援が来る前に」


 刺客は苦々しく麻奈を睨みつけ、折れた剣を投げ捨てた。そのまま煙のように図書室の奥へと消えていった。


 静寂が戻る。私はその場にへたり込み、麻奈の背中を見つめた。


 戦場での彼女は、これほどまでに冷徹で、強い「プロ」だったのだ。彼女の足元には、砕け散った漆黒の剣の破片が、月光に照らされてキラキラと輝いていた。


「……渚、大丈夫? 怪我、見せて」


 麻奈がギアを解除し、いつもの笑顔に戻って私の方へ歩み寄ってきた。私は彼女の手を握りながら、消えていった如月先輩の場所を指差した。


「麻奈……如月先輩が……私を庇って……っ」


「大丈夫だよ、渚。凛さんはリターン・ギアで本部に送られただけ。命を救うためのシステムだもん。……今はあっちの医務室で、ぐっすり眠ってるはずだよ。だから、安心して」


「……良かった。先輩、無事だったんだ。……でも。それにしても麻奈はどうやってこんなに強くなったのかな? 私と同じ、中学生のはずなのに……」


 安堵と共に、触れられないほど遠くに感じた親友の背中が、脳裏を離れない。麻奈は私の汚れた手を優しく拭うと、図書室の惨状を見渡して目を細めた。


「……こんなところで、本物のハイパー級と戦わせるなんて。物騒な奴がいるんだね。……行こう、渚。まずはここを離れないと」


 私は麻奈の手を借りて、ゆっくりと立ち上がった。如月先輩が命懸けで守ったこのデータ。そして、先輩の無事。


「……行こう、麻奈。私は絶対に真相を突き止めたい。何が起きてるのか、全部」


 夜の学園。瓦礫の山を背に、二人の少女は医務室へと向かって歩き出した。


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