裏切り
蓮さんとの地獄のような剣術特訓を終えた私は、ボロボロの体を引きずりながら、図書室の最奥へと向かっていた。
如月先輩から「どうしても今すぐ伝えたいことがある」というメッセージを受け取っていたからだ。
「……渚。よく聞いて」
図書室の明かりは落とされ、端末の青白い光が如月先輩の険しい表情を照らしていた。
「私が新宿のボスロボットと、虎徹のギアのログを解析して辿り着いた答え。それは、私たちの組織……ストロントそのものの歪さよ。……これを見て。上層部の一部に、ワットの技術をそのまま横流ししている形跡があるわ。……それだけじゃない。この命令系統のトップにいる男――十条議員。彼こそが、この戦争を裏で操っている『擬態したワット』である可能性が極めて高いの」
心臓が早鐘を打つ。私たちが命を懸けて守ってきた組織。その頂点にいるのが、倒すべき敵だった?
「……全部、あいつが仕組んだ遊戯だって言うんですか……?」
「おそらくね。……渚、今すぐここを逃げなさい。あなたが『適性S』に目覚めたのは、彼にとって――」
その時だった。図書室の自動ドアが、静かに閉ざされた。入り口に立っていたのは十条ではなかった。十条が放ったと思われる、全身を漆黒のギアで包んだ顔の見えない刺客。
「渚、逃げて……! その男、規格外よ!」
如月先輩の叫びと同時に、私はギア『ホワイト・アウト』を起動させた。
「ギア、セット。――起動! 」
白銀の閃光が図書室を包む。だが、刺客はその光をものともせず、一撃、また一撃と、私の装甲を鋭く削り取っていく。特訓で培った技術でさえ、この男には通用しない。
まるで私の動きを最初から予見されているかのように、すべての先を越されていく。
ドンッ! と重い一撃が腹部を捉え、私は本棚へと叩きつけられた。追い打ちをかけようとする刺客。その時、私の前に如月先輩が飛び出した。
「渚、伏せて――!!」
先輩が放ったエネルギー波が刺客を止めたが、その代償はあまりに大きかった。漆黒の刃が、無慈悲に如月先輩の肩口を切り裂いたのだ。
「――ぁ……」
崩れ落ちる如月先輩。同時に、警報音が鳴り響く。
『……判定、深刻な損傷! 如月凛、リターン・ギア、強制発動!』
「やめてよ!!」
私の叫びも虚しく、如月先輩の体は白銀の粒子に包まれ、消えていく瞬間に私へ託すような微笑みを残した。
「……あ、ああああああああ!!」
覚醒。適性Sの出力が、これまでのリミッターをすべて焼き切り、私は地を蹴った。ただ純粋な殺意を乗せた、超光速の一撃。
激突する白と黒。だが、それでも――この男は倒しきれない。致命傷を避けるどころか、私の覚醒した出力にさえ順応し始めていた。
「……っ、はぁ、はぁ……」
力が底を突きかけ、膝が震える。死を覚悟した、その時だった。
「――渚! どこにいるの!?」
図書室の入り口に、一人の少女が現れた。
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