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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第三章 スーパー隊員編
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特訓

 翌朝、第14訓練場。


 リターン・ギアによる凍結はすでに解けていたが、れんさんは私に「変身」を許さなかった。


「……蓮さん、これは?」


 私の前に放り出されたのは、白銀のギア『ホワイト・アウト』ではない。使い古され、あちこちがささくれた一本の竹刀しないだった。


「今日からお前が振るのはそれだ。ギアの出力に頼らず、その竹棒一本で俺の体に触れてみせろ」


 蓮さんは手にした木剣を無造作に構える。構えというにはあまりに自然体。けれど、そこからは一分の隙も感じられない。


「いいか山上やまがみ。お前を負かした虎徹こてつの盾は、お前の『出力』を待っている。大きな力には大きな反動があり、それは必ず隙を生む。昨日の敗因は、お前がその隙を自分からさらけ出したことだ。……剣術とは、力を伝えることじゃない。力を『消す』ことだ」


 そこから、地獄のような訓練が始まった。


 変身していない生身の体。ただの竹刀が、数時間を過ぎる頃にはなまりのように重く感じられる。


 蓮さんが地を滑るように動いた。


「――っ、速い……!」


 私は反射的に竹刀を掲げたが、次の瞬間には、私の喉元に木剣の先がピタリと突きつけられていた。


「今の動きだ。お前は今、力任せに竹刀を振ろうとした。だから俺に動きを読まれる。……音を立てるな。殺気を漏らすな。自分の存在そのものを、空気の中に溶け込ませろ」


 何度も打ち込まれ、床を転がり、全身が青あざだらけになる。けれど、蓮さんは止めてくれない。実羽みわさんも高い場所から冷徹な視線を送り、私の無駄な動きを容赦なく指摘してくる。


「肩に力が入ってるわよ、渚。……相手を『壁』だと思うから弾かれるのよ。相手を『流れ』だと思えば、道は見えてくるはずよ」


 実羽さんの助言を噛み締めながら、私は再び立ち上がった。


(……才能に頼っていたのは自分だ。今のままじゃ、バルドには絶対に届かない。蓮さんの言う通り、私はもっと、自分の体そのものを研ぎ澄まさなきゃいけないんだ)


 夕暮れ時。何百回、何千回と竹刀を振るい、意識が朦朧としてきたその時だった。


 蓮さんの踏み込みが、一瞬だけ止まって見えた。


 私は無意識に、力を入れるのではなく、逆に肩の力を抜いた。


 吸い込まれるように、竹刀の先を蓮さんの懐へと滑らせる。


 ガギィィン!


 今日初めて、私の竹刀が蓮さんの木剣と重なり、その力を「いなす」ことができた。


 ほんの一瞬。けれど、そこには確かに、虎徹先輩の盾をすり抜けるための「道」が見えた気がした。


「……ほう。少しはマシな音になったな」


 蓮さんが不敵に笑う。


 私は、ボロボロになりながらも、確かな手応えを感じていた。


 力で叩きつけるのではなく、相手の芯に「置く」ような一撃。これが、蓮さんの言う本当の剣術――力を消す一撃への入り口だった。


「……竹刀一本が、こんなに重いなんて。でも、蓮さんの動きを見てると、まるで重さを感じないみたいだ。……私も、いつかあんな風に……」


 訓練を終え、私は立っているのもやっとの状態だった。けれど、心はかつてないほど燃えていた。


 才能だけじゃない、技術で壁を越える。その予感が、敗北の悔しさを塗り替えていく。


「……見ててください、蓮さん。次こそは、その木剣に触れてみせます。そして……虎徹先輩、あなたの盾を、私は必ず越えてみせる」


 私は震える手で、汗にまみれた竹刀を強く握りしめた。

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