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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第三章 スーパー隊員編
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ランク戦 渚vs虎徹②

 盾の影から不意に突き出された、虎徹こてつ先輩の片手剣。


 反射的に体を捻り、私は『ホワイト・アウト』のさやでその刃を強引に弾いた。


 ガギィィィン!!


「――っ、あぶな……っ!」


 冷や汗が背中を伝う。


 押していると思っていたのは、私だけだった。先輩はあえて私の連撃を受け続けることで、私の攻撃のリズム……「配球」を完璧に読み切っていたのだ。


「ほう、今のを防ぐか。昨日の大規模任務で、少しは『勘』だけは良くなったみたいだな。だが、守ってるだけじゃ勝てねえぞ?」


 虎徹先輩の言葉には、剥き出しの余裕が混じっていた。


 私は焦り、再び距離を詰めて闇雲に剣を振るった。けれど、先ほどまであれほど確かな手応えのあった私の攻撃は、今や虎徹先輩の盾の表面を空しく滑るだけだった。


 カン、カカァン!


 面白いように受け流される。


 虎徹先輩は、まるでバッターを追い詰めるピッチャーのように、無駄のない最小限の動きで私の剣筋を殺していく。私の放つ白銀の閃光は、その重厚な盾に触れるたびに霧散むさんしていく。


「……あ、れ……? 当たらない……っ!?」


「当たり前だ。お前の剣には『迷い』がある。適性Sの出力に振り回されて、肝心の『狙い』がブレてんだよ。それじゃあ、ただの棒球だ!」


 虎徹先輩が、巨大な盾を大振りに振り回した。


 私はそれを好機と見て飛び込もうとしたが、それこそが先輩の周到な「誘い」だった。


 盾が空を切った刹那、その陰から再び「本命」の剣が閃く。


 それは、私の右肩の装甲を鋭く削り取った。


「ぐっ……あぁっ!」


 火花が散り、肩を焼くような痛みが走る。


 体勢が大きく崩れる。私は必死に立て直そうとしたが、虎徹先輩はそれを許さなかった。


 盾で私の視界を物理的に奪い、その裏から見えない角度で、正確に急所を突いてくる。


 一撃。二撃。


 一つ一つの威力は、決して耐えられないほどではない。けれど、休む間もなく繰り出される「正確な加点」が、私の精神と体力を確実に削り取っていく。


(……動けない。どこから攻撃が来るのか、全然分からない……! 麻奈、助けて……透斗……っ!)


 意識の隅で、誰かに助けを求めている自分に気づき、私は戦慄した。


 ここは戦場じゃない、ランク戦の舞台。私はたった一人で、この絶望的な「壁」を越えなければならないのに。


三振さんしんだ、山上やまがみ。……お前はまだ、自分の『牙』を信じきれてねえんだよ」


 虎徹先輩が、初めて剣を引き、両手で巨大な盾を構え直した。


 ギアの全エネルギーが、その盾の中央へと一点に集束していく。


「――っ、来る……!」


 私は反射的に防御を固めようとした。けれど、足が震えて動かない。


 昨日の連戦による疲労、そして目の前の圧倒的な実力差。私の心は、その一撃が放たれる前に、すでに折れかけていた。


「――必殺ひっさつ、『グランド・スラム』!!」


 ドォォォォォォォォォォォォン!!


 盾の表面から放たれた、逃げ場のない超高密度の衝撃波。


 回避不能。私の『ホワイト・アウト』が、その暴力的な圧力の前に無残にも弾き飛ばされた。


「……ぁ……」


 肺の空気がすべて吐き出され、私の体は、ホームランを打たれたボールのように宙を舞い、訓練場の壁へと激突した。


 頭を揺さぶるようなアラート音。視界が急速に狭まっていく。


『……判定、戦闘不能! 山上渚、リターン・ギア、強制発動!』


 審判の絶叫が、遠ざかる意識の中で響く。


 私の体は、死の境界線リミットを越える前に白銀の粒子に包まれ、この残酷な舞台から引き剥がされていく。


「……私は、虎徹先輩に思い知らされた。まだ自分は、未熟なことを……」


 光の中で消えゆく瞬間に感じたのは、自分の「適性S」という才能に甘えていたことへの、烈しい後悔だった。


 ――キィィィィィィィン!!


 気がつくと、私は支部の帰還室きかんしつのカプセルの中にいた。


 再起動トランスフォームまで、あと五時間。


 冷たいカプセルの中で、私は震える右手を強く、強く握りしめた。


「次、戦う時は絶対に倒してみせます。……待っていてください、虎徹先輩」


 静かな室内で、私は一人の戦士として、その敗北を噛み締めていた。


 山上渚、適性S。


 彼女の本当の「牙」を研ぐための、長い夜が始まろうとしていた。

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