鶴見川下流域・大規模防衛任務②
鶴見川下流域。そこはもはや、私の知っている横浜の景色ではなかった。
工業地帯の巨大なクレーンはへし折れ、コンテナは紙細工のように潰されている。視界を埋め尽くすのは、感情を排した鋼鉄の眼光――数万のロボット兵の波だ。
「ああっ……! クソ、これ以上は持たねえ!」
悲鳴と共に、銀色の閃光が弾けた。近くで戦っていたスーパー隊員の一人が、ロボット兵の物量に押し潰され、リターン・ギアを起動させて光の粒子へと消えていく。
一人、また一人と、現場の戦力が削り取られていく。
「――っ、麻奈! 透斗!」
最前線で、黄金の大剣と青い雷光が重なり合い、絶え間なく火花を散らしているが、あの二人でさえも際限なく湧き出す鉄の波に飲まれかけていた。
そこへ、工業地帯の最深部から地響きと共に現れたのは、全高十メートルを超える『超重装甲・オートマトン:タイタン』。
「嘘……でしょ……。あんなの、どうやって倒せば……」
私は焦り、ホワイト・アウトを引き抜いた。
「今度は私が助ける……! ハァァァッ!!」
全力のホワイト・アクトをタイタンの脚部へ向けて放つ。けれど――。
「――っ、避けられた……!?」
その巨体に似合わず、タイタンは関節部を不気味にスライドさせ、私の全力の一撃を「最小限の動き」で回避したのだ。
私の放った閃光は空しく虚空を裂き、背後のコンテナを無駄に蒸発させただけだった。
「山上、欲張るなと言ったはずだ! 狙いが大まかすぎる!」
蓮さんの怒声が飛ぶ。実羽さんも狙撃を続けるが、タイタンの反射障壁に弾き返され、舌打ちを漏らす。
「ダメね、物理防御だけじゃない、私の弾道すら読み切ってる。こいつ、これまでの機械人形とは演算能力が違うわ!」
タイタンが巨大な鉄球を振り下ろす。
ドォォォォォォォォォォォォン!!
地面がクレーターのように抉れ、その衝撃でさらに数人のスーパー隊員がリターン・ギアを強制起動させられ、戦場から「脱落」していった。
(……怖い。私の全力は避けられ、仲間たちは消えていく。私に……何ができるの?)
足が震える。でも、ここで私が逃げれば、麻奈たちはどうなる?
私は唇を噛み切り、鉄球の風圧に耐えながら目を凝らした。避けられるなら、避けられない場所を叩く。蓮さんが見せてくれた「最小限の解答」。
実羽さんが教えてくれた「溶け込む感覚」。そして、さっきの失敗でわかった、タイタンが動く直前に見せる「装甲の僅かな開き」。
「蓮さん、実羽さん! ……もう一度、行きます。今度は『点』で仕留める!」
「……フン、言うようになったじゃねえか。……死ぬんじゃねえぞ、山上!」
蓮の影が踊り、実羽の閃光がタイタンの視覚センサーを一瞬だけ焼き払う。その隙を突き、私は白銀の閃光となって地を滑った。
巨大な鉄球が振り下ろされるその直前、駆動エネルギーを逃がすために一瞬だけ開く、脚部関節の「隙間」。
「――そこだあああああ!!」
「もう避けさせない。私は二度も同じミスは絶対にしない!」
私の放った『ホワイト・アクト』が、今度は避ける隙も与えず、針のような細さでタイタンの関節内部へと吸い込まれた。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
内側から爆ぜる極光。あれほどまでに強固だった鉄の巨神が、断末魔のような機械音を上げて、ゆっくりと膝から崩れ落ちていく。
静寂。夕日が隠れ始めた戦場に、私たちはボロボロになりながらも立ち尽くしていた。
「……渚。あなた、本当に……」
抱きしめてくる麻奈の温もりを感じながら、私は残骸の山を見つめた。何人ものスーパー隊員が脱落するほどの激戦。
でも、私は一歩、進めた気がする。
「今のを活かして、我妻先輩にも勝ってみせる!」
私は夕日を見上げ、次なる決戦の地、地下コロシアムへと想いを馳せた。




