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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第三章 スーパー隊員編
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ランク戦 渚vs佐伯②

 「――あああああああ!」

 

 佐伯さえきくんの絶叫ぜっきょうと共に、赤黒あかくろあらしわたしを飲み込んだ。


 速い。重い。リミッターを外した彼のギア『リッパー・エッジ』は、もはや人の領域を超えていた。防戦一方の私の『ホワイト・アウト』が悲鳴を上げ、足元のアスファルトが削り取られていく。


「どうした山上やまがみ! 逃げるだけじゃ何も守れねえぞ!」


 

 ガギィン! と鈍い衝撃が私の腹部を突き、体が宙に浮く。


 背中から壁に叩きつけられ、肺の空気が強制的に吐き出された。視界が点滅し、アラート音が頭の中で狂ったように鳴り響く。


 観客席からは、勝利を確信したような歓声と、私を嘲笑あざわらう声が波のように押し寄せていた。


(……このままじゃ、負ける。佐伯さえきくんの努力は、確かに本物だ。でも……!)


 脳裏をよぎるのは、新宿しんじゅくの朝焼けの中で消えたバルドの背中。


 そして、私の帰りを信じて待っていてくれた麻奈まな透斗とうとの顔。


 私は、歯を食いしばって立ち上がった。ボロボロになったスーパー隊員たいいんの制服。震える指先。けれど、胸の奥にある黄金の歯車は、まだ一ミリも折れていない。


「……れんさん。約束、守れそうにないです」


 私は控室の方を一度も見ずに、自分の中にある「安全装置ブレーキ」に手をかけた。れんさんに教わった、自分を守るためのかせ。今の私なら、そのかせをほんの一部だけ、自分の意志で外せるはずだ。


「私はこんなところで止まるわけにはいかないんだ。……少し本気を出させてもらうよ」


 ――カチリ。


 私の中で、何かが外れる音がした。

 

 直後、私の体から、これまでとは比較にならない密度の白銀はくぎん閃光せんこうが噴き出した。


 訓練場くんれんじょうの空気が爆圧ばくあつで震え、佐伯さえきくんが驚愕きょうがくに目を見開く。


「な……なんだ、その光は……! ギアの限界値を超えているのか!?」


 形勢は、一瞬で逆転した。


 私を追い詰めていた赤黒い嵐が、私の放つ圧倒的あっとうてきな光に飲み込まれていく。私は、型なんて知らないまま、ただ真っ直ぐに佐伯さえきくんへと踏み込んだ。


 ドォォォォォォン!!


 衝突。けれど、押し込まれたのは佐伯さえきくんの方だった。私の放つ純粋なエネルギーの密度に、佐伯くんのギアが耐えきれず、その連撃に僅かな「揺らぎ」が生じる。


「……しまっ……!」


 佐伯くんが初めて、体勢を崩した。その刹那を、私は逃さなかった。新宿の地下で死神を、カマカミを、あのバルドを見据えた私の瞳が、佐伯くんの胸元にある『核』を、一点の曇りもなく捉える。


「……これで、終わりだよ。佐伯さえきくん」


 私は、ありったけの力を『ホワイト・アウト』の刀身へ、一本の細い線のように凝縮させた。暴走ではない。これこそが、れんさんとの地獄の修行で手に入れた「制御された暴力」。


「――ホワイト・アクト!!」


 白銀の閃光が、訓練場を真昼のように照らし出した。


 回避不能かいひふのう防御不能ぼうぎょふのう


 私の全力の牙が、佐伯くんの胸元へと突き刺さる。

 直後、凄まじい衝撃波と共に、佐伯くんのまとっていたスーパー・ギアが霧散するように弾け飛んだ。同時に、彼の身を守るための『リターン・ギア』が眩い光を放って起動する。


「……ぁ……あ……」


 光の粒子となって強制転送される直前、佐伯くんが信じられないものを見るような瞳で私を見つめた。私は、消えゆく彼に向かって、静かに、けれど確かな勝利の言葉を贈った。


「ありがとう、佐伯くん。私はこの戦いで少し成長できた気がするよ」


 ――キィィィィィィィン!!

 佐伯さえきくんは光の中に消え、横浜支部の専用室へと強制帰還きょうせいきかんさせられた。


 静まり返った訓練場に、私の荒い息遣いきづかいだけが響く。

 

『……しょ、勝者、山上やまがみなぎさ!!』


 遅れて響いた審判の絶叫が、新しい「英雄」の誕生を告げていた。観客席を埋め尽くしていた野次やじは消え、そこには畏怖いふと熱狂の入り混じった、割れんばかりの拍手が鳴り響いていた。


 私は、空っぽになった右手を握りしめ、自分に言い聞かせるように、バルドのいる空を見上げた。

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