異次元
『ホワイト・アクト』が放った純白の極光が、新宿の夜空を白一色に染め上げた。
轟音が止み、光が収まった都庁前広場には、ただ不気味なほどの静寂だけが残されていた。
カマカミがいた場所には、一人の男が力なく横たわっている。リターン・ギアを自ら壊した彼に、もう「次」はない。男は微かに口端を歪め、そのまま、静かに事切れた。
「……終わった、の?」
私は、震える手でホワイト・アウトを鞘に収めた。
リミッター解除の反動が全身を襲い、立っていることさえやっとだった。
蓮も、迅も、石丸も……八人のハイパー隊員たちは皆、その場に崩れ落ちるように座り込んでいる。
勝った。
誰もがそう確信し、互いの健闘を称え合おうとした、その時だった。
――ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!
新宿の空を割っていた『門』が、これまでとは比較にならない不気味な脈動を始めた。
そこから漏れ出すプレッシャーだけで、都庁の壁に新たなひびが入り、広場に残っていた数千人の隊員たちが一斉にその場に平伏した。さっきあれだけ頑張って倒したカマカミとは比べ物にならないくらいの威圧に吐き気を覚える。
「な、んだよ……この、化け物じみた殺気は……」
石丸が歯を食いしばり、必死に頭を上げようとする。
門の中から、ゆっくりと、一人の男が降りてきた。漆黒の外套を纏い、金色の双眸を湛えた男。そいつが地面に降り立った瞬間、新宿全体の戦火が、まるで彼への敬意を示すように一瞬で鎮まった。
(……息が、できない。ただ立っているだけなのに、世界そのものが彼に従っているみたい。これが、この侵攻軍の……)
怪物の放つオーラは、カマカミのそれとは次元が違った。彼は横たわるカマカミの遺体を見下ろし、小さく鼻で笑った。
「……カマカミを討つか。不完全とはいえ適性S、ね。そして羽虫共。よもや、これほど楽しませてくれるとはね」
怪物が黄金の瞳で私を真っ直ぐに射抜いた。
「山上渚。貴様の牙、まだ未熟だが……磨けば私に届くかもしれないな」
(私の……名前……!?)
怪物は不敵な笑みを浮かべ、天を指し示すように右手を上げた。
「我こそはワットの国、新宿侵攻軍特攻隊長――バルト。……だが、ここで貴様らを摘み取るのは、いささか興が削がれるよ。今はまだ、その弱き牙を守り、いつか私に届かせてみせな」
特攻隊長の宣告。それは、絶望的な実力差を突きつけながらも、渚たちの「可能性」を認める強者の余裕だった。
「今度本気を出してお主らと戦いたいからな。精々、牙を研いでおけよ。……次に会う時は、私の本気を引き出してみせよ、楽しみにしてる」
「……引け。今宵は、貴様らの『志』に免じて、この街を返してやろう」
その言葉を最後に、バルトの姿と、空を覆っていた巨大な亀裂は、朝焼けの光の中に溶けるように消え去った。後に残されたのは、朝日が昇り始めた、ボロボロの新宿の街並み。
「……渚」
透斗と麻奈が、私の元へ歩み寄ってくる。
私は、遠い空を見つめたまま、白銀のギアを強く握りしめた。
「バルト……。次は絶対に負けない。もっともっと強くなって、今度は私の力で、平和を取り戻してみせる!」
新宿の長い夜が明ける。
それは、私たちが「世界の真実」を知り、ワットの国へと挑むための、新たなる物語の始まりだった。
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