絶望
白銀の閃光――私の最大出力である『ホワイト・アクト』が、新宿の闇を切り裂き、カマカミの胸元を直撃した。爆音と共に凄まじい衝撃波が広がり、都庁前広場が白一色に染まる。瓦礫が舞い、空間が歪むほどの熱量。勝った、と誰もが確信したその時。
「……ハ、ハハハハハ! 痛いぞ、適性S! これが、これが『痛み』というやつか!!」
爆煙の中から現れたカマカミは、胸から鮮血を流しながらも、狂ったように笑っていた。
リターン・ギアを壊した彼の肉体は、傷を負うほどにその生存本能を剥き出しにし、殺気を増幅させていく。
「そんな、今のが効かないなんて、もう無理なの? このままじゃみんなを助けられない……」
絶望が、冷たい水のように足元から這い上がってくる。私の全力は確かに届いたはずだった。
それなのに、目の前の怪物は倒れるどころか、傷口から不気味な赤黒いオーラを溢れさせ、その体躯をさらに一回り膨張させている。
剥き出しになった筋肉が脈打ち、真紅の瞳は理性ではなく、ただ純粋な「殺意」だけで燃え上がっていた。
「おらぁ! まだまだ足りねえぞ!」
石丸が咆哮し、再び大槌を全力で振るう。けれど、カマカミはそれを生身の腕一本で受け止め、逆に石丸を背後のビルまで吹き飛ばした。
「石丸!!」
透斗が神速で助けに入ろうとするが、カマカミが鎌を振るうたびに放たれる「血の衝撃波」に弾かれ、地面を転がる。
大宮のエースである迅ですら、先ほどの重力波のダメージから回復できず、膝をついて激しい息を吐くことしかできない。
絶体絶命。視界が白く霞み、逃げ出したいという本能が頭をもたげたその時、広場に黄金の熱量と漆黒の雷鳴が轟いた。
「――下がってなさい、渚! ここからは私たちが食い止める!」
「チッ、しぶとい野郎だ。……総員、死ぬ気で合わせろ!」
黄金の大剣を振りかざす麻奈と、漆黒の刃を閃かせる蓮。横浜支部の最強格二人が、満を持して戦線に割り込んだ。石丸と透斗が作った僅かな隙を、二人の凄まじい連撃が埋めていく。
(私は1人でこの化け物を倒すことはできない、でもみんなが一緒ならもしかしたら……!)
カマカミの大鎌が振るわれるたび、新宿の地面が深く削れ、周囲のビルがドミノ倒しのように崩落していく。麻奈が正面からその一撃を大剣で受け止め、生じる火花が彼女の必死な横顔を照らす。蓮が影のように死角を突き、カマカミの装甲を削り取る。
私の限界時間(30秒)は、残り数秒。焦りが心臓を叩くけれど、二人の背中を見ていると、不思議と呼吸が整っていくのがわかった。彼らは私を「お荷物」だなんて思っていない。私にチャンスを繋ぐために、命を削って盾になっているんだ。
「あがけ、羽虫ども! 貴様らの絶望が、我が王バルドへの最高の捧げ物となるのだ!」
カマカミの鎌が赤黒い雷を纏い、一気に巨大化する。新宿全体を断ち切らんとする広範囲の一撃。
麻奈と蓮のギアが悲鳴を上げ、二人の足元のアスファルトが爆ぜる。
(……怖い。でも、ここで私が止まったら、二人の想いが、みんなの命が消えちゃう!)
私は、震える手で『ホワイト・アウト』のグリップを、指の形が変わるほど強く握りしめた。
適性Sの力が、私の叫びに呼応するように、再び白銀の輝きを強めていく。
「私はあいつを倒しみんなを救いたい!」
私の魂の叫びが、新宿の戦火を突き抜けた。
倒れることは許されない。退くことも許されない。
私は、再び地を蹴った。ボロボロになった仲間たちの背中を追い越し、死神の鎌の嵐の中へと、迷いなくその身を投じた。




