カマカミvs渚・透斗・石丸
新宿の夜が、重力に押し潰されていく。
都庁前広場を支配したのは、サブリーダー・カマカミが放った無慈悲な重圧だった。
アスファルトは幾何学模様のようにひび割れ、逃げ遅れたノーマル隊員たちが次々と地面に這いつくばる。横浜、大宮、千葉、東京――各支部の精鋭たちが誇った自慢のギアでさえ、その理不尽な力の前では鉛のように重く、動かすことさえままならない。
「……く、そ……なんだよ、これ……」
大宮の迅が、自身の『サークル・デス』を杖代わりにして耐えるが、その腕は激しく震えている。千葉の麗は、蓮を守ろうと氷の盾を展開するが、重力に押し潰された氷は瞬時に粉砕され、霧となって消えた。
絶望。
誰もがそう確信し、リターン・ギアの強制帰還を待つしかなかった、その時。
鉄が擦れる、鋭い音が響いた。
「……おい石丸。……お前、まさかこんなところで寝るつもりか? 恥ずかしくて、横浜に帰れねえよ」
「ハッ、笑わせんな透斗。……重力だか何だか知らねえが、八王子の意地、舐めんなよ。俺のハンマーは、地球の引力ごと叩き割るためにあるんだ!」
骨が軋み、筋肉が断裂せんばかりに浮き出る。
透斗と石丸。横浜と八王子のエース二人が、自分たちを地面に縫い付けようとする重力波を「根性」だけでねじ伏せ、立ち上がったのだ。
「う、おおおおおおおおお!!」
石丸が咆哮し、巨大なハンマーを力任せに振り抜いた。重力そのものを物理的に叩き割るような衝撃波が広がり、一瞬だけ、私たちを縛っていた圧力が霧散する。その僅かな隙を逃さず、透斗が青白い雷光となって地を蹴った。
神速。重力の影響が戻る前に、彼はカマカミの懐へと肉薄する。
「面白い。羽虫が二匹、死に場所を求めて這い出してきたか」
カマカミが冷酷に笑い、身の丈を超える大鎌を振るう。
ドォォォォォォォォォォン!!
石丸がハンマーで鎌を真っ向から受け止め、火花が新宿の闇を切り裂く。透斗は死角からその巨躯を斬りつける。二人の連携。それは言葉を超えた、戦場での信頼から生まれる「最強の盾と矛」だった。
(……今だ。二人が、私のために『道』を作ってくれてる……!)
私は震える手で『ホワイト・アウト』を胸元に引き寄せた。
視界が狭まっていく。周囲の怒号も、爆音も、すべてが遠ざかる。
蓮さんとの修行。あの生卵の感触。
私は、自分の中に眠る適性Sの巨大な熱量を、一点に、針の先ほどに凝縮していった。
抑えるんじゃない。私自身が、この白銀の牙と溶け合うんだ。
二人の背中越しに見える、赤く光るカマカミの胸の核。
あそこだけは、ギアによる保護が存在しない「生身」の弱点。
私のホワイト・アウトが放つ純白の輝きが、暗い地下街をも超える光を帯びて、刀身を震わせる。
30秒。
私の限界時間が、カウントダウンを刻む。
カマカミの大鎌が、石丸の肩を切り裂き、透斗の防護服を朱に染めた。
それでも、二人は一歩も引かなかった。
「行けええええ! 山上ええええ!!」
石丸の絶叫が、広場に響き渡った。
「ハァァァァァッ!!」
私は地を蹴った。重力を振り切り、白銀の流星となって死神の懐へ飛び込む。
大鎌が私の喉元へ迫る。けれど、私はもう怖くなかった。
私には、信じて背中を預けてくれる仲間がいる。
横浜支部で出会った、最高の人たちがいる。
「お前を絶対に倒して、みんなで、明日へ行くんだ!!」
私の叫びと共に、『ホワイト・アウト』が臨界点を超えた。
放たれたのは、ただのエネルギーの奔流ではない。
蓮さんとの修行、透斗と麻奈の優しさ、そして石丸たちが見せてくれた勇気。
そのすべてを乗せた、一撃必殺の光。
「――ホワイト・アクト、フルバースト!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
純白の閃光が新宿全体を真昼のように照らし出し、死神カマカミの影を完全に飲み込んだ。
リターン・ギアを自ら壊した彼に、逃げ場はない。
やがて訪れた、圧倒的な静寂。
光が収まった都庁前広場に立っていたのは、ボロボロになりながらも、肩を寄せ合う私たちだけだったはずだった。




