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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第二章 新宿侵攻編
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カマカミvs渚・透斗・石丸

 新宿の夜が、重力に押し潰されていく。


 都庁前広場を支配したのは、サブリーダー・カマカミが放った無慈悲な重圧だった。


 アスファルトは幾何学模様のようにひび割れ、逃げ遅れたノーマル隊員たちが次々と地面に這いつくばる。横浜、大宮、千葉、東京――各支部の精鋭たちが誇った自慢のギアでさえ、その理不尽な力の前では鉛のように重く、動かすことさえままならない。


「……く、そ……なんだよ、これ……」

 大宮の迅が、自身の『サークル・デス』を杖代わりにして耐えるが、その腕は激しく震えている。千葉の麗は、蓮を守ろうと氷の盾を展開するが、重力に押し潰された氷は瞬時に粉砕され、霧となって消えた。


 絶望。


 誰もがそう確信し、リターン・ギアの強制帰還を待つしかなかった、その時。


 鉄が擦れる、鋭い音が響いた。


「……おい石丸。……お前、まさかこんなところで寝るつもりか? 恥ずかしくて、横浜に帰れねえよ」


「ハッ、笑わせんな透斗。……重力だか何だか知らねえが、八王子の意地、舐めんなよ。俺のハンマーは、地球の引力ごと叩き割るためにあるんだ!」


 骨が軋み、筋肉が断裂せんばかりに浮き出る。


 透斗とうと石丸いしまる。横浜と八王子のエース二人が、自分たちを地面に縫い付けようとする重力波を「根性」だけでねじ伏せ、立ち上がったのだ。


「う、おおおおおおおおお!!」


 石丸が咆哮し、巨大なハンマーを力任せに振り抜いた。重力そのものを物理的に叩き割るような衝撃波が広がり、一瞬だけ、私たちを縛っていた圧力が霧散する。その僅かな隙を逃さず、透斗が青白い雷光となって地を蹴った。


 神速。重力の影響が戻る前に、彼はカマカミの懐へと肉薄する。


「面白い。羽虫が二匹、死に場所を求めて這い出してきたか」


 カマカミが冷酷に笑い、身の丈を超える大鎌を振るう。


 ドォォォォォォォォォォン!!


 石丸がハンマーで鎌を真っ向から受け止め、火花が新宿の闇を切り裂く。透斗は死角からその巨躯を斬りつける。二人の連携。それは言葉を超えた、戦場での信頼から生まれる「最強の盾と矛」だった。


(……今だ。二人が、私のために『道』を作ってくれてる……!)


 私は震える手で『ホワイト・アウト』を胸元に引き寄せた。


 視界が狭まっていく。周囲の怒号も、爆音も、すべてが遠ざかる。


 蓮さんとの修行。あの生卵の感触。


 私は、自分の中に眠る適性Sの巨大な熱量を、一点に、針の先ほどに凝縮していった。


 抑えるんじゃない。私自身が、この白銀の牙と溶け合うんだ。


 二人の背中越しに見える、赤く光るカマカミの胸の核。


 あそこだけは、ギアによる保護が存在しない「生身」の弱点。

 私のホワイト・アウトが放つ純白の輝きが、暗い地下街をも超える光を帯びて、刀身を震わせる。


 30秒。

 私の限界時間が、カウントダウンを刻む。

 

 カマカミの大鎌が、石丸の肩を切り裂き、透斗の防護服を朱に染めた。


 それでも、二人は一歩も引かなかった。


「行けええええ! 山上ええええ!!」


 石丸の絶叫が、広場に響き渡った。


「ハァァァァァッ!!」


 私は地を蹴った。重力を振り切り、白銀の流星となって死神の懐へ飛び込む。


 大鎌が私の喉元へ迫る。けれど、私はもう怖くなかった。

 私には、信じて背中を預けてくれる仲間がいる。

 横浜支部で出会った、最高の人たちがいる。


「お前を絶対に倒して、みんなで、明日へ行くんだ!!」


 私の叫びと共に、『ホワイト・アウト』が臨界点を超えた。


 放たれたのは、ただのエネルギーの奔流ではない。

 蓮さんとの修行、透斗と麻奈の優しさ、そして石丸たちが見せてくれた勇気。

 そのすべてを乗せた、一撃必殺の光。


「――ホワイト・アクト、フルバースト!!」


 ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


 純白の閃光が新宿全体を真昼のように照らし出し、死神カマカミの影を完全に飲み込んだ。


 リターン・ギアを自ら壊した彼に、逃げ場はない。


 やがて訪れた、圧倒的な静寂。


 光が収まった都庁前広場に立っていたのは、ボロボロになりながらも、肩を寄せ合う私たちだけだったはずだった。


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