中身の伴わない覚醒
「あ……、あ……」
私の手の先で、その「塊」?は異様な変貌を遂げていた。
床に転がっていた、ただの予備部品のはずの黒い金属体。それが私の指先に触れた瞬間、麻奈や透斗が持っていたもののような端末に変わっていった。
そして溢れ出した眩い白光が、私の細い腕を飲み込む。光が収まったとき、私の手には一本の――けれども、どこか不完全で歪な形をしている剣が握られていた。
『――個体識別、山上渚。ギア、出力……計測不能。リミッター、強制解除』
無機質な機械音声が、端末から響く。
「渚、どけぇ!!」
透斗の叫びが聞こえる。
けれど、私の体は恐怖で動かないのではない。
逆だ。
掌から流れ込んでくる、濁流のような「力」に、無理やり動かされていた。
目の前では、三体目の『ワット』が鎌を振り上げている。
先ほどまで、麻奈と透斗はあいつを慎重に追い詰めていた。二人ならもっと早く倒せたはずだ。けれど、ここは学校だ。自分たちの武器――『ギア』の出力を上げすぎれば、建物そのものを粉砕してしまい、逃げ遅れた生徒たちを巻き込んでしまう。
だから、二人はあえて出力を抑え、精密な連携で戦っていたのだ。
「ダメだ、間に合わない……っ!」
麻奈が顔を歪める。
リミッターを解除して突っ込めば、私を助けられるかもしれない。けれど、その余波で教室が吹き飛んでしまう。二人の一瞬の迷い。
その隙間を、黒いスーツの怪人が、死の影となって埋めにくる。
(くる――)
ワットの鎌が、私の首筋を刈り取ろうとしたその瞬間。
キィィィィィィィン!!
鼓膜を突き刺すような金属音が響き、火花が視界を埋め尽くした。
いや、火花なんて生易しいものじゃない。
私の振るった剣のようなものがワットの鎌を、そしてその背後のコンクリート壁ごと、バターでも切るかのように切り裂いていた。
「え……?」
手応えが、ない。
それほどまでに、私の振った一撃は「軽すぎて」、それでいて「暴力的なまでの破壊」を伴っていた。
鎌を失ったワットが、信じられないものを見るように硬直する。
私は、そのまま吸い込まれるように、二歩、踏み込んだ。
教わったこともない、剣の振り方。
けれど、胸の奥で回る黄金の歯車が、最適解を私の脳に直接叩き込んでくる。
「ハ……ッ!!」
横一文字。
光の残像を残して、ワットの胴体が斜めにずれた。
直後、建物の構造を無視した凄まじい衝撃波が走り、教室の窓ガラスがすべて外側へと弾け飛ぶ。
黒いスーツの怪人は、その余波に巻き込まれ、光となり、その光はどこかにすごい速さで飛んでいった。
静寂が、荒れ果てた教室を支配した。
「……嘘、でしょ」
麻奈が、呆然とし、口を開ける。
「私たちのギアは、環境保護のために出力を三割に固定してた。……それを、渚、この狭い空間でフル出力で……?」
「それだけじゃない」
透斗が、震える手で自身のギアのモニターを指差す。
「出力だけじゃないんだ。さっきの、見ただろ。ストロントの……適性ランク、S。歴史上、数人しか観測されてない、規格外の数値だ。……あいつ、何を手に入れちまったんだよ」
透斗の言葉が、遠くで響く。
私は、二人の隣に立ちたくて、何とか一歩を踏み出す。
「麻奈……透斗……私、も、やっと……」
これで、置いていかれなくて済む。
その喜びを伝えようとした、その時だった。
カクン、と。
膝から、すべての力が抜け落ちる。
「……あ、れ?」
熱かったはずの胸の奥が、っていく。
握っていた武器が砂のように崩れ落ちていく。
視界が急激に暗転し、立っていることさえできなくなったていった。
「渚!?」
駆け寄る二人の足音。
私は、理解した。
私の中にあったエネルギーは、今の一撃だけで、空っぽになってしまったのだ。
「あはは……。やっぱり、私……パッと、しないな……」
適性だけが異常で、中身が伴っていない。
私は自分の情けなさに苦笑いしながら、そのまま深い闇の底へと落ちていくのだった。
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