表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第二章 新宿侵攻編
PR
29/129

自分の覚悟

 地下街から地上へ這い上がると、そこにはさらなる地獄が広がっていた。


 空からは黒い粒子が冷たい雨のように降り注ぎ、新宿の摩天楼は燃え盛る火柱に赤く照らされている。私は、ホワイト・アウトを握る右手の震えを止めることができずにいた。掌に残る、あの男を貫いた時の感触が、呪いのようにこびりついて離れない。


「……おい、適性S、お前がストロントに入った覚悟はそんなもんなのか? 敵兵を殺しただけで崩れるのか?」


 足を止めた私に、じんが苛立ちを隠さない声をぶつけた。


 彼は自分の『サークル・デス』に付着した「赤い汚れ」を無造作に拭いながら、私を冷たく睨みつける。その瞳には、迷いを抱く者への容赦ない軽蔑が宿っていた。


「迅、言い過ぎだ。渚は……」


 麻奈が私を庇おうとしたが、それを制したのは意外にもれんだった。


「いや、こいつの言う通りだ。山上、お前がその手を汚したくないなら、今すぐギアを捨てて、あそこの避難所にでも逃げ込め。……ここは、そういう場所だ」


 蓮の言葉は氷のように冷たかった。けれど、その突き放すような物言いは、私に「戦士」としての選択を迫っていた。


(そうだ、私の覚悟はそんなもんじゃない、半端な覚悟でここまで来た訳じゃない。でも人を殺してしまったのは事実、反省をしなきゃいけない。もう、私はどうすれば……)


 罪悪感と使命感が胸の中で激しくぶつかり合い、吐き気がこみ上げる。人を殺した。命を奪った。その事実は、どんな正論を並べても消えはしない。


 けれど、私がここで立ち止まっている間にも、新たな亀裂から吐き出されたワットが、悲鳴を上げる市民に襲いかかっている。


「――山上さん! 無事だったのね!」


 瓦礫の山を越えて駆け寄ってきたのは、横浜支部の指揮を執っていた如月先輩だった。彼女の制服も泥と油でボロボロになり、その表情には深い疲労が滲んでいる。


「如月先輩……。私、あの中で……」


「聞いたわ。地下にいたのは、ワット側の『特殊工作員』だったって。……辛いかもしれないけど、今は止まっている時間はないの。都庁の『門』が、完全に開きかけてる」


 如月先輩が指差した先。新宿の空を飲み込む漆黒の渦が脈動し、そこから今までとは比較にならない巨大な「影」が、地上を押し潰そうと這い出そうとしていた。


 私は、震える手でホワイト・アウトのグリップを、指の形が変わるほど強く握りしめた。


「今はこんなことで悩んでいるばあいじゃない。少しでも多くの命を救うために私はもっと頑張らないと」


 私は自分の頬を強く叩き、無理やり前を見据えた。


 奪った命への謝罪は、この戦いが終わった後に、一生をかけて背負えばいい。今はまだ、私の力を必要としている人がこの地獄の中にいる。


「……行こう。今度こそ、誰も死なせないために」


 私は白銀の閃光を再び纏い、新宿の最深部へと走り出した。


 迷いを断ち切ったわけじゃない。ただ、その迷いを抱えたまま戦う覚悟を決めたのだ。


面白いと思ったらぜひご評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ