光の後に残されたもの
眩い白銀の閃光――『ホワイト・アクト』の余光が、ゆっくりと暗い地下街に溶けていく。
あれほどまでに禍々しかった死神の気配は消え、後に残されたのは、焼けたコンクリートの匂いと、耳が痛くなるほどの静寂だけだった。私は荒い息を吐きながら、力が入らなくなった膝を床に突き、必死に肺に空気を送り込んだ。
「……やった、んだよね?」
私が顔を上げ、仲間に問いかけようとした、その時だった。
視線の先、倒したワットがいた場所。いつもなら黒い粒子となって霧散するはずのそこには、一人の「人間」が横たわっていた。
「そんな、ワットは元は人間……?」
喉の奥が引き攣り、信じられない光景に視界が歪む。漆黒の装甲は砂のように崩れ落ち、そこから現れたのは、自分たちと変わらない年齢に見える、一人の男の姿だった。
彼はストロントの隊員服によく似た、けれど見たこともない紋章が刻まれた服を纏っている。
その男の胸には、私の『ホワイト・アクト』が真っ向から貫いた、生々しい傷跡が刻まれていた。
(私は、人を殺してしまった。そんな、そんなこと、もうー、なんで……?)
指先が激しく震え、胃の底からせり上がるような吐き気に襲われる。今まで戦ってきた相手は、ただの心ない怪物だと思っていた。倒せば救いになる、そう信じて疑わなかった。けれど、目の前にあるのは、温かさを失いつつある本物の「遺体」だ。私が、私の意思で放った光が、一人の人間の未来を永遠に奪い去ってしまった。
「……人間……。嘘、でしょ……?」
麻奈が声を震わせ、口元を両手で覆って後ずさった。透斗も、迅も、そしてあの蓮でさえも、言葉を失って沈黙の遺体を見つめている。
リターン・ギアという安全装置を自ら壊し、覚悟を持って戦場に立っていたのは、私たちと同じ「意志ある人間」だった。それを理解した瞬間、握っていたホワイト・アウトが、ひどく重く、呪わしい鉄の塊に感じられた。
その時、地下街に新たな警報が鳴り響いた。
『――地下街の隊員は直ちに脱出せよ! 地上にて特級の増援を確認。繰り返し通達、被害はさらに拡大中……!』
如月先輩の声。けれど、今の私にはそれが遠い国の出来事のように聞こえた。目の前の命を奪っておきながら、どうして次の戦場へ向かえるというのだろうか。
(人を殺してしまった。命をひとつ消してしまった。でも私は進まなければならない。ひとつでも多くの命を助けなければならない。矛盾しているのはわかってる、でも……)
私は、震える手で地面を強く叩き、無理やり体を立ち上がらせた。
遺体に謝ることも、弔うことも、今の私には許されない。この手にこびりついた感覚は、一生消えることはないだろう。けれど、私がここで立ち止まれば、救えるはずの他の命が消えていく。
「……行こう。行かなきゃ、ダメなんだ」
私は泣き出しそうな声を無理やり押し殺し、ホワイト・アウトを鞘に収めた。
正義なんて言葉ではもう片付けられない。血に汚れた手を握りしめ、私たちは出口のない新宿の深淵へと、再び足を踏み出した。




