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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第二章 新宿侵攻編
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新宿地下迷宮の叫び

 新宿駅は、地上だけでなく広大な地下街が網の目のように広がっている。逃げ遅れた人々が一番多く取り残されているのは、あの太陽の光が届かない、暗い迷宮だ。


「……渚! ぼーっとしないで。地下から救助要請よ!」


 通信機から如月先輩の鋭い声が響く。私は、透斗と麻奈と共に、瓦礫に埋もれた階段を駆け下りた。


「わー、真っ暗。おばけでそうで怖い。こんなところに『ワット』もいる中取り残されちゃうなんて」


 非常灯が力なく点滅し、不気味なオレンジ色の光が通路を染めている。壁の向こうからは、ガリガリとコンクリートを削るような音が響き、黒い粒子が霧のように足元にたまっていた。


 かつては華やかだったショッピングモールは、いまや声を出すことさえ躊躇われるほど、静まり返った墓場のようだ。


 通路の奥から響く、数体のワットの足音。そこには、逃げ場を失った親子と、彼らを庇ってボロボロになったノーマル隊員の姿があった。


「助けて……っ!」

 悲鳴が狭い通路に反響する。


 私は、透斗と麻奈が背後の増援を抑えるのを確認し、親子を狙うワットの前に飛び出した。


 ここは狭い。かつてのように力を暴発させれば、天井が崩落して親子を巻き込んでしまう。蓮さんとの修行。あの生卵の柔らかさを思い出す。


「暴走はしない! 絶対に助ける!」


 自分に言い聞かせるように叫び、極限まで意識を研ぎ澄ませる。


 ――カツン。


 私は、あえて大きく踏み込まなかった。アリの歩幅で。

 ホワイト・アウトの先から放たれた最小限の白銀の閃光が、暗闇を正確に切り裂き、親子に迫っていたワットの核を一撃で貫いた。


 

「助けられた、本当によかった。……もう大丈夫ですよ。怪我はないですか?」


 震える親子の手を握る。


 今まで、私の力は壊すことしかできなかった。でも、今は違う。誰かを守るために、私は自分の意思でこの力を扱えている。初めて、自分の適性Sという力の意味を見つけた気がした。


 安堵の溜息が漏れた、その時だった。

 

 ――ズゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!

 

 地下街全体が、これまでの爆発とは質の違う重圧で震えた。


 通路の奥から、カラン、カランと規則正しい、鉄の足音が聞こえてくる。現れたのは、これまでのワットとは装甲も、放つ殺気も異次元の個体。


 漆黒のフードを被り、その手には身の丈を超える禍々しい大鎌を携えていた。

「……見つけたぞ。横浜の、不完全な『S』」


 フードの奥で、真紅の瞳が冷たく笑った。

 意思を持つワット。それも、今までの五体とは比較にならないほどの「死」の気配を纏った、新宿の守護者。


「渚、逃げろ!!」


 透斗の絶叫が響く。けれど、目の前のワットの鎌が、一瞬で私の喉元へと迫っていた。

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