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ストロント・ギア ―適性Sの戦痕―  作者: コロッケパン
第二章 新宿侵攻編
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人類最強の牙

 横浜・綱島駅。かつての通学路は、今や巨大な亀裂から降り注ぐ黒い粒子に塗りつぶされていた。


 霧の中から降り立ったのは、五つの「影」。これまでの怪物のようなワットとは違う、人間とほぼ同サイズの無駄のない体躯に、白磁のような仮面をつけた異形たち。その瞳には明確な「知性」と、獲物を冷徹に分析する「悪意」が宿っていた。


『……適性S、発見。……排除、開始』


 五体の特級が、ノイズ混じりの声で同時に告げる。

 彼らが構えた黒い刃から放たれる殺気だけで、私のスーツの耐久値がジリジリと削られる。


 けれど、今の私には『ホワイト・アウト』がある。蓮さんとの苦行を乗り越えた今なら、このレベルの敵とも渡り合えるはずだ――。


 そう意気込んだ私の肩を、麻奈の手が優しく、けれど強く制した。


「渚、下がってて。……ここから先は、私たちの仕事だよ」


 麻奈の瞳が、黄金の輝きを帯びる。その隣で、透斗が双剣を引き抜き、深く腰を落とした。


「五体か。……麻奈、十秒でいいよな」


「十分。――リミッター完全解除。オーバーロード、承認! 」


 二人の全身から、横浜の夜を昼間に変えるほどの、奔流のようなエネルギーが噴き出した。


(もうすぐで追いつけると思っていた。でも、2人は本当はこんなに強かったんだ。私なんてまだまだだったんだ……! )


 二人が放つプレッシャーに、息をすることさえ忘れて立ち尽くす。


 ドォォォォォォォォォォン!!


 激突の衝撃波で、周囲のビルの窓ガラスが一斉に粉砕される。


 意思を持つ特級たちが、驚愕したように体を震わせた。彼らの超高速の連携を、透斗がさらに上回る神速の剣筋で寸断し、一人、また一人と黒い霧に変えていく。逃げようとした残りの二体も、麻奈が振り下ろした大剣が引き起こす「空間の歪み」に捕らえられ、その絶大な重圧の前に一歩も動けぬまま粉砕された。


 それは「戦い」なんて呼べるものではなかった。ハイパー隊員という「人類最強の牙」が、ただ一方的に害虫を駆除した。それだけの光景だった。


(私はまだ2人の隣に立つことはできない、けど、いつか私はきっと……)


 目の前で繰り広げられた圧倒的な無双劇。今の自分では到底届かない「高み」を見せつけられた悔しさが、胸の奥を激しく突き上げる。


 だが、その時だった。

 砕け散ったワットの体から、黒い霧ではなく、聞き慣れたあの音が響いた。


 ――キィィィィィィィン!!


 眩い光の粒子。それは、私が幾度となく訓練や実戦で見てきた、あの『リターン・ギア』の輝きと全く同じだった。


 五体の特級ワットたちは、光の筋となり、空の亀裂の向こう側へと一瞬で消え去っていった。


「……嘘でしょ? あいつら、今、『リターン・ギア』を使ったの……?」

 麻奈が驚愕に目を見開き、大剣を握る手が微かに震えた。


 敵は死んでいない。どこかへ――彼らの本拠地へと「帰還」したのだ。


 わずか十秒。敵を退けた綱島駅前で、麻奈が申し訳なさそうに笑う。


「お待たせ。……びっくりさせちゃったかな?」


 私はホワイト・アウトを強く握り直し、二人を見上げて笑った。


「すごいよ、でもいつか絶対に追いついて見せるからね」


 その時、耳元で如月先輩の緊急通信が弾けた。


『――状況終了を確認。そのまま新宿へ向かって! 首都圏全支部に総動員令が出たわ。……新宿が、完全にワットの巣に飲み込まれようとしてる!』


 私たちは支部の輸送車に飛び乗り、次なる地獄、新宿へと向かった。


 敵も人間で、ギアを使っている。その不気味な予感だけを、胸に抱いて。

新宿侵攻編スタートです。

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