2人の隣へ
蓮との模擬戦を終えた翌日。私はボロボロの体のまま、いつものように日本学園の教室にいた。
窓の外に見える綱島の街並みは、今日も「普通」を装って平和に動いている。けれど、私の右手には、昨日蓮と本気で切り結んだ時の、皮膚を焼くような熱い感触が、まだ微かに残っていた。
「……渚。昨日、蓮さんとやったんだって? 」
放課後。誰もいなくなった教室で、透斗が声をかけてきた。その後ろには、麻奈も心配そうな、でもどこか嬉しそうな顔で立っている。
昨日までの二人なら「無茶をするな」と真っ先に怒っていただろう。けれど、今の私の瞳に宿る熱が、二人の言葉を飲み込ませたのかもしれない。
「うん、まだ蓮さんには敵わなかったけど、いつか絶対に蓮さんを超えてみせる! 」
私の明るい返事に、二人は一瞬だけ驚いたように目を見開いた。絶望的な実力差を見せつけられながら、それでも前を見据える私の言葉に、透斗がふっと頬を緩める。
「……そっか。お前なら、本当にいつかやりそうだな」
麻奈も少しだけ寂しそうに、でも誇らしげに笑った。彼女は私の包帯が巻かれた手元を優しく見つめ、静かに告げた。
「今回の任務……この大規模なワットの侵攻を抑えることができれば、あなたも……。スーパー隊員に、なれるかもしれないんだって。もう、私が守らなきゃいけない『普通の渚』じゃないんだね」
スーパー隊員。正規の戦士としての第一歩。
私は麻奈の瞳を真っ直ぐに見つめ、自分自身に、そして大切な二人に誓った。
「いつか2人と同じハイパー隊員になってみせるからね! 」
私の決意が教室に響いた、その時だった。
――バリィィィィィィィィン!!
前に聞いたあの音よりも、何十倍も重く、冷たい破壊音が世界を揺らした。
見上げた横浜の空には、街全体を飲み込もうとするほどの漆黒の亀裂が走っていた。そこから溢れ出すのは、これまでの個体とは比較にならない「特級」のプレッシャー。
校舎の窓ガラスが悲鳴を上げて砕け散り、大気が震える。
『緊急事態! 横浜各所に特級ワットを確認! ……さらに、隣接する東京支部の管轄からも巨大な負のエネルギーを確認! 全スーパー及びハイパー隊員は直ちに出撃せよ! 』
支部の通信端末から、如月先輩の悲鳴のような叫びが響き渡る。
横浜の危機に呼応するように、隣接する東京からも何かがやってくる。それは災厄か、それとも新たなる敵か。
私は、腰にある白銀のギア『ホワイト・アウト』を強く握りしめた。
手が震えている。でも、それはもう恐怖じゃない。ようやく、大好きな二人の隣で戦えるという、魂が震えるような高揚感だ。
「私は絶対ワットから守り通してみせる! 」
私は白銀の閃光を纏い、透斗と麻奈と共に、砕け散った窓から戦場へと飛び出した。
山上渚という「適性Sの少女」が、自分の志を立てた日。
本当の地獄と、本当の物語は、ここから加速していく。
第一章完結です。
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