冷たい視線
目が覚めると、視界は真っ白だった。
天井の蛍光灯が放つ無機質な光と、消毒液の匂い。そこがストロント横浜支部の医務室であることを、私がギアを握ることに決めた場所だと、私はぼんやりとした頭で理解した。
「……あ、痛っ……」
身体を起こそうとして、右腕に鋭い痛みが走った。見れば、私の腕は肩から先まで厳重に包帯で固定され、何かよくわからない冷却装置に繋がれている。
「……無理に動かないで。筋肉がギアの熱で焼け付いてたんだから」
横にいたのは、麻奈だった。彼女は制服に着替えていて、いつもの「日本学園の優等生」の姿に戻っていた。けれど、その瞳には私をずっと心配していたのか隠しきれない疲労と、暗い影が落ちている。
私は、震える唇で彼女に問いかけた。
「みんなは大丈夫? あの、えっと、ごめんね……」
自分の怪我よりも先に、仲間たちの無事と、自分の力不足を謝ってしまう。それが、山上渚という少女の「普通」で「優しすぎる」本質だった。
麻奈は一瞬、悲しそうに目を伏せたけれど、すぐに努めて明るい笑顔を作った。
「大丈夫。透斗も、実羽も無事よ。……ワットも、あれから一匹も残らず消滅したわ」
麻奈の指先が、私のベッドのシーツを強く握りしめる。その震えに気づいたとき、彼女は絞り出すような声で言った。
「渚、ごめんね、私があの時しっかり渚を守れていればこんなことにはならなかったのに。ごめんね、ごめんね……」
麻奈の瞳から溢れた涙が、シーツに小さな染みを作っていく。ハイパー隊員として、そして親友として、私を「あちら側」に引き込んでしまったという罪悪感が、彼女の心を苛んでいた。私は包帯のない方の手で、そっと彼女の指に触れた。
沈黙が流れる。私は、自分が放ったあの一撃を思い出していた。ワットを、ビルを、すべてを飲み込んだあの白銀の閃光。あれはもう「訓練」なんて呼べるものじゃなかった。
その時、病室のドアがノックもなしに開いた。
「――お目覚めか、適性S」
入ってきたのは、見慣れない青年だった。漆黒のハイパー隊員専用スーツをラフに着崩し、腰には見たこともない形状のギアをぶら下げている。その全身から放たれる威圧感は、麻奈や透斗さえも軽く凌駕していた。
「実戦の最中に勝手に暴走して自分が怪我をしちまうとは、ほんとうにみっともないやつだなー」
青年――横浜支部最強のハイパー隊員の一人と噂される「蓮」は、鼻で笑いながらベッドに歩み寄った。
「……誰、ですか?」
「俺か? 俺は蓮だ。お前みたいな『自爆ボタン』が同じ支部にいると思うと、こっちはヒヤヒヤして夜も眠れねえよ」
蓮は私の包帯で巻かれた腕を、品定めするような目で見つめる。そこには憐れみも心配も全くなく、ただ「戦力として使えるかどうか」という冷徹な計算しか頭になさそうだった。
「適性Sなんて大層な数値、お前には豚に真珠だな。……おい、麻奈。こんな『お荷物』をいつまで守ってやるつもりなんだ?」
「蓮、いい加減にして! 渚は……!」
麻奈が立ち上がり、私を庇うように蓮の前に立ちはだかる。
病室の空気は一瞬で凍りついた。これが、ストロントの頂点に近い者たちが持つ、本当の緊張感。
私は麻奈の背中越しに、蓮の鋭い視線を受け止めていた。
悔しさと、それ以上の圧倒的な実力差に、胸の奥の黄金の歯車が微かに震えた気がした。




