残響
真っ白な閃光が、目の前の視界のすべてを焼き切っていた。
数秒前までそこにいたはずの「意志を持つワット」は、断末魔さえ残さず消滅している。扇状に抉れたアスファルトと、熱で歪んだ空気だけが、そこにあった暴力的なまでの適性Sの出力の証だった。
「……あ、れ」
ふっと、意識が遠のく。
右手の感覚がまったくない。見下ろせば、握っていたはずの訓練用ノーマル・ギアは、ドロドロに溶けた鉄屑となって地面に落ち、ジジジ、とアスファルトを焼くとてつもなく嫌な音を立てていた。
「渚……!!」
叫びながら駆け寄ってきたのは、麻奈だった。
彼女は自分の大剣を背中のマウントへ戻すのももどかしく、膝から崩れ落ちそうになる私の身体を、その細い腕で力一杯抱きとめた。
「渚! しっかりして! ……あんな、あんな無茶な出力の出し方をして…… 」
麻奈の声が、私の耳元で震えている。彼女のアンダースーツから伝わってくる体温が、ギアのオーバーヒートで冷え切った私の身体を、少しずつ溶かしていっていた。
透斗もすぐに駆け寄り、私の顔色を覗き込んだ。
「おい、返事しろ! ……腕、マジで真っ赤じゃねえか。リミッターが完全に溶けてやがる」
透斗の声には、怒りと焦燥が混じっていた。
けれど、私はうまく言葉が出ない。いや、出せない。ただ、自分の放った一撃が、この街の一部を消し去ってしまったという現実に、ただただ圧倒されていた。
「……すごかったわよ。でも、最低の戦い方ね」
ビルの屋上から軽やかに跳び降りてきた実羽が、重い狙撃用ギアを担ぎ直し、冷めた瞳で私を見下ろした。
「実羽、言い過ぎよ! 渚は私たちを守ろうとして……」
「守る? 自分の腕を一本焼き付かせて、たった数秒しか動けない馬鹿げた出力で? ……そんなのは、戦場じゃ『心中』って呼ぶのよ。麻奈、あんたたちが甘やかすから、この子は自分の価値を勝手に勘違いするの」
実羽の言葉は、氷の刃のようにとても鋭かった。
麻奈と透斗、そして実羽。三人の間に流れる、言葉を必要としないほどの強い絆。その完璧な三角形の中に、私は自分の未熟さを武器にして、無理やり割り込んだだけなのだと、改めて突きつけられた気がした。
「……でも、助かった。実羽、お前の射撃がなきゃ、渚はやられてた」
「……当たり前でしょ。あんたたちがトロいから、いつも私がカバーしてるの」
実羽はそう言って視線を逸らしたが、彼女の指先が微かに震えているのを、私は見逃さなかった。彼女もまた、この異常な力を持つ新人が、自分たちの居場所を壊してしまうことを。あるいは、このまま死んでしまうことを、本能的に恐れていた。
その時。
夜の闇を裂いて、上空から一機の輸送ヘリが接近してくる。
「――作戦終了。適性S個体および当該部隊を回収する」
スピーカーから流れる、感情のない大人の声。
私は麻奈に抱えられたまま、薄れゆく意識の中で、燃え尽きた街を眺めていた。
意志を持っていたワットの、あの声が耳に張り付いて離れない。
『ミツケタ、ランクS』。
(……私は、何に見つけられてしまったの?)
私は麻奈の体の温もりを感じながら、逃れられない運命の歯車が、より速く、より激しく回り始めるのを感じていた。
「私は今後どうすれば……」
最後にそう考え、なかなか覚めない深い眠りについた。
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