第23枠 月を冠するスキル
修行が始まって、2週間が過ぎた。
毎日、毎日、午前中は特訓を繰り返し、午後は実践で感を培った。
地味で同じことを繰り返す毎日だったが、少しずつ自分の動きや考え方、エウリとマロスとの連携が研ぎ澄まされていく実感があって、とても充実した日々だと思う。
毎日が充実はしていたし、自分たちより優れた冒険者パーティである、シルバーリングの面々に毎日特訓を付けてもらったのは、本当に貴重な経験だと思っているが、どんどんと午前の訓練内容がきつくなっていくのが、しんどかった。
「ほらほらほら!!そんなんじゃ俺の魔法は捌ききれないぞ!!火だるまになりたいのか!!」
「無理無理無理無理むr!!!!!」
まるで弾幕のような火球が、アルケスさんの杖からガンガン射出される。火球は回避できないほどの量があり、しかも一発一発が結構な火力をもっているので、当たったらそこそこの怪我になる。
それに対して、俺は月炎を神威で強化し、真っ二つに切り裂いたり、打ち払ったりして迎撃する。
俺が冗談で、死の千本ノックだといったせいで、意味もあんまり伝わってないだろうに、千本ノックと称された訓練が毎日行われた。これが本当にしんどい。
「あっつ!!」
「油断すんなよ!綺麗な顔が真っ黒になるぞー!!おらぁ!!くたばれイケメンがぁ!!」
「私情!!私情を検知しました!!!」
アルケスさんは修行を開始して日数がたってから、どんどんと本性を現し始めた。
普段は物腰も柔らかで、丁寧な物言いに、親しみやすい砕けた言葉遣いだが、それは皮をかぶっていただけのようだ。
弓使いのイオさんいわく、「炎系魔法を得意としている時点で、おとなしい性格なわけないでしょ」とのことだ。
アルケスさんは地元では有名な悪ガキだったが、年齢を重ね、パーティを背負う立場になって、かなり落ち着いたそうだが、もう30代も中盤なのに、彼女もいないことを気にしており、恋愛系が絡むと悪ガキに戻るたしい。
「エウリという美人引き連れてのんきに修行とかしてんじゃねぇ!!!領主との契約で街から出られない俺の出会いのなさを考えたことあんのかぁ!!」
アルケスさんは、今までで一番魔力のこもった火球を放った。火球は白く輝き、事前に放っていた弾幕の火球すら破壊しながら、猛烈な勢いで迫ってくる。
この火球は受け損なったら本当に死ぬ!!
「うおおぉおおおおお!!!!」
俺は今までにないほどの力を、全力で剣だけに込めた。
神威の発する赤いオーラが刀身に流れ、集約されていく。
もっと、もっとだ!全力でバフを込めないと防げない!
ありったけの神威を刀身にどんどんと込めていくと、黒い刀身を覆うオーラの色がどんどんと濃くなり、さらに抑えきれない力が揺らめいて焔のように波打つ。
その瞬間、脳裏にスキル名が浮かんだ。
「月炎・焔!!!」
焔を纏った一閃は、アルケスさんの放った白い火球を綺麗に真っ二つに切り裂いた。
ドォオオオオオン!!
その後、背後で火球が爆発する。
「し、死ぬかとおもった…」
「あー…すまん!やりすぎだ!!完全に熱くなってしまってたよ。けがはなかったか?」
「いや、本当に死ぬところでしたからね??怪我はないですけど、怪我どころじゃない話になりかけましたからね?」
「いや、本当にすまん」
アルケスさんは全力で謝罪してくれた。
正直、本当に死ぬところだったが、ここまで修行に付き添ってくれたこと、昼をおごってくれることでチャラにすることとした。エウリもマロスも誘って、高級店で昼食しようと決めた。
何はともあれ、自分だけの必殺技―“月炎・焔“が完成した。
神に与えられたものじゃない、自分の努力で手に入れたスキル。なんだか感慨深い気分である。
「…それにしても、まさか俺の“白火”を破壊するほどの技ができるとはな。予想以上の成果だな、これならA級でも通用するだろう」
「はい、ありがとうございます!…でもこれ、かなり体力とか集中力とか持っていかれるし、溜めも大きいし、何発も打てるものではないですね…」
「まぁ最初はそんなもんだ。なんせ、自分の壁を一つ破ってできた技、今の自分には過ぎた攻撃力がある技だからな。いずれ、その技に身体能力や魔力なんかも追いついて、息をするように放てるようになるさ―こんな風にな」
アルケスさんの周囲には、“白火”が数十個浮かび、それらが互いにぶつからないような軌道で自在に動いていた。
「…A級はまだまだ、遠いですね…」
少しは強くなったと思うが、ベテラン冒険者との差はかなり大きいようだ。
◇
その後、少し早く午前の特訓を切り上げたので、エウリとステンノさんが訓練している場所へ行くことにした。
そこでは、エウリが全力でステンノさんをぶったたいている様子が繰り広げられていた。
「どうしたぁ!!そんな軽い技では、儂を喜ばせることはできんぞ!!」
「くっ…!!気持ちわるい、ステンノ」
「はっはっは!!何を言われてもダメージにならんわ!!」
「なんて厄介なハゲ…!」
数日前から知ってはいたが、つるつる頭の僧侶おじさんに、全力でどでかいハンマーを打ち付ける美少女の図は違和感がすごい。
エウリの修業は、あまりにも環境破壊が過ぎるので、ステンノさんが体で受けることになったらしい。
エウリは岩より硬い人型の的は実践にちょうどいいと言って喜び、ステンノさんは殴られる喜びを感じていて、win-winの関係のようだ。
「お前の覚悟はそんなものか!!ハゲ一人倒せず、本当に実家へ帰れると思っているのか!!」
「…!!」
シルバーリングの人たちには、エウリの事情を話し、俺たちが魔族領へ行くことを話していた。というのも、上位冒険者だけ知らされる政治的な情報というのも入ってくるようで、世間知らずな俺たちに、色々教えてくれないかと頼んでいたのだ。
シルバーリングの人たちはそれを快く受け入れてくれた。それも、この街への脅威を一緒に取り除く協力への対価だという。みんな個性しかないメンバーだが、根はやさしい人たちだと改めて思った。
「お前の家族も!実家も!その程度の覚悟で守れると思っているのか!!力がなければ、全て奪われる。命を奪われれば、生き返す術などこの世にはない!
お前のために、一緒に魔族領に行くという仲間も死んでしまったとき、お前は自分の力不足を嘆かずに生きていけるのか!!
「わかってる…そんなこと、わかってる!!!」
エウリが今まで以上の気迫でハンマーを殴りつける。
しかし、ステンノさんはスキルを発動しているのか、直立のまま片手でエウリのハンマーを受け止めていた。
「ステンノのスキル“不動傷王”だ。あいつはダメージを受ければ受けるほどに防御力が上がっていく。普段は痛みがなくなる!とか言って使ってないが、あれを発動しているということは、ステンノもスキルを使わないとエウリの攻撃を受け止められないんだろ」
アルケスさんがこっそりと教えてくれる。
「ステンノさんって…なんで僧侶なんですかね…?」
「あいつは、もともと孤児院で育ったんだ。こどもの頃はがりがりで、気も弱く、孤児院内で神父に暴力を振られていたそうだ。そんなある日、旅の僧侶が孤児院を訪れて、ステンノの傷をいやし、一緒の旅に連れて行ってくれた。その後、なんやかんやあって、ああなったんだとさ」
「なんやかんやが気になるんですが…」
「すまん、ハゲたおっさんの話とか興味なくて、あんまり覚えてない。昔のことだし」
なんか、アルケスさんは結構ダメな大人なんじゃないかって気がしてきたな。
そんなやり取りの傍では、エウリとステンノさんの攻防がさらに激しさを増していた。
「はぁ…そんなんじゃだめだと言ってるだろ!足、腰、背中、腕、手、それを一本の力の流れだと思え!まるで血流のように、お前の体を作る食物の栄養が流れていくように!
このままだと昼に終わらず、飯抜きだぞ!!」
「…!!??ごはん、抜き、やだ…」
エウリはその場で急に動きを止め、ハンマーを両手で構えなおすと、ハンマーがぶるぶると振るえ出した。
ハンマーの表面に、茶色い岩がどんどん浮き出てくる。
「これは…アラクネの魔石から土魔法を発動させているのか…?」
アルケスさんは信じられないような顔でその様子を見ていた。
ハンマーは表面が見えなくなるほどの岩が付着し、それが無理やり圧縮されていく。
エウリは、月地を高く振り上げた。
ハンマーと一緒に持ち上がった顔からは、普段の眠そうな表情が消え、まるで魔王のような威圧感を醸しだしていた。
そのままエウリは跳躍し、ステンノさんの真上から、岩に覆われた巨大なハンマーを打ち下ろした。
「堕ちろ―月地・隕!!」
ドゴオオオオオオオン!!!!
まるで隕石が降ってきたかのような、強烈な打撃がステンノさんに降りかかる。
これまでとは、桁違いの轟音が、演習場を揺るがした。
「うがぁあああああ!!!!」
ステンノさんが両腕をクロスさせて、ハンマーを防ぐ。
しかし、その威力を殺しきれず、ステンノさんの足元の地面が蜘蛛の巣のように割れた。
「…これ、ステンノさん大丈夫ですかね」
「ほら、ステンノの口元見てみろよ、笑ってるだろ。きっと大丈夫だ」
「あ、ステンノさんの左足がえぐい方向に曲がったように見えるんですけど、大丈夫ですかね」
「ほら、ステンノの口元見てみろよ、まだ笑ってるだろ?きっと、大丈夫だ」
「あ、ステンノさんの両足がえぐい方向に曲がりましたね、大丈夫ですかね」
「ほら、ステンノの口元見てみろよ、まだまだ笑って…いや、血吹いてるな、まずいな!!」
俺とステンノさんは全力でエウリを止め、ステンノさんを救出した。
「エウリ!!正気に戻れ!!」
「ごはん…うばうもの…てき…」
「ほ、ほら昼ご飯はアルケスさんがおごってくれるってさ!!うまいもんいっぱい食おう!!」
「うまいもの…、はっ!!私はいったい…」
なんとかエウリを正気に戻し、ステンノさんは自力で傷を治し、万事解決した。
まぁアルケスさんの顔色が蒼白になっていたが、怪我ではないし問題ないだろう。
◇
その日の午後の討伐で、俺とエウリは、習得したての技を、実戦で試した。
エウリの“月地・隕”は、群れの中心に叩き込めば、その余波で周囲の低級の魔物ごと一撃で殲滅するほどの、圧倒的な破壊力を見せた。俺の“月炎・焔”は、硬い甲殻を持つ大型の魔物を、簡単に一刀のもとに両断した。
俺とエウリは二人とも、一段強くなっていた。
だが――。
「……くそっ」
マロスだけが、まだ、自身の超えられない壁の前にいた。
敵と味方の両方を見る癖もつき、大盾の扱いも特段に良くなった。だが、肝心のスキル――ナイトメアを全開にした防御スキルは、まだ形にならなかった。
本気で影を出そうとする、その一瞬。
マロスの中で、何かがブレーキをかけているようだ。
結局、その日の午後の依頼も、マロスはスキルを発動できなかった。
その日の夕飯も、アルケスさんのおごりでご飯を食べることになった。
なんでも、訓練の内容を、訓練中に冒険者ギルドや貴族たちとの窓口をやっているイオさんに報告したところ、めちゃくちゃ怒られたらしく「コトギくんの命に見合うだけのご飯をおごりなさい」という無茶苦茶な命令を与えられたそうだ。
そこはA級冒険者として、多額の貯蓄があるアルケスさんだったが、ついでにエウリの食事もおごる流れになって、また顔面蒼白になっていた。
そんなこんなで、俺たち3人とシルバーリングの4名で夕飯を食べることになった。
「ごめん……2人はもう、スキルができたのに。僕だけ、足を引っ張って」
夜の食堂で、マロスが、肩を落とした。
どうやら、俺とエウリが同時に技を完成させたことも気にしているようだ。
「マロス」
マロスの隣に座るドラベルトさんが、彼の肩に手を置いた。
「お前の問題は技術じゃなくて、心だ。しかも、そんなに簡単に克服できるものではない、重い問題だ」
「……心の問題…そうですよね」
「お前はまだ、その力を心の底から自分のものだって思えてないんだ。でも、いつか、なにかのきっかけが来れば、克服できるだろう。俺は、そう信じている」
ドラベルトさんは、酒を、ぐいと呷った。
「きっかけ……」
マロスは、しばらく俯いていたが、やがて、こくり、と頷いた。
「……はい。ありがとう、ドラベルトさん」
「おう」
この間で、俺たちとシルバーリングの間の絆もだいぶ深まってきた。
訓練が一緒じゃないイオさんとは、まだ少し壁を感じるが、いずれ打ち解けられるだろう。
俺たちはマロスが抱えている問題を吹き飛ばすように、腹がはちきれそうになるまで、夕飯を楽しんだ。
「…え?合計で金貨3枚ですか…?ほとんどが琥珀色の髪の女性が…あ、はい、そうですか…」
金額を聞いたアルケスさんの顔色が、また蒼白になった。酒を飲んでいたのに、一瞬で酔いがさめた顔つきをしている。
俺たちが街を出る前に、アルケスさんの財布が消えないか心配になってきたな。




