二十一章 新たな日々へ
酒に呑まれ、何時の間にか三人共眠り込んでいたようだ。気が付いて蔵を出ると、すっかり夜が明けていた。民家の屋根から顔を覗かせた朝日が起き抜けの目に痛い。
「ふぁ~。変な姿勢だったから首痛え。もう一回布団で寝直すかな……」
ボリボリ。
「んな暢気な。まだ諸々手続きが済んでねえだろ。喪が明けたらまた忙しくなるんだ。さっさと書類と印鑑持って役所行け」
「あ、そうだった。悪い悪い。ええと、確かそう言うのは四が全部管理してたから、取り敢えず探してみるかな」
酒臭い欠伸をしつつ、親父はノロノロと離れへ入っていく。と、蔵の中でまだうつらうつらしていた柚芽がようやく覚醒し、覚束無い足取りで外へ出てきた。
「大丈夫か?」
「うん……あ、そうだ。これ」
トランクのジッパーを開け、ゴソゴソ。取り出したのは右半分だけ埋まった婚姻届だった。
「小母様から貰ったの。私の分はもう書いたけど……いい?」
まだ若干恐れを含んだ表情に更なる愛しさが増す。
「ああ。少し休んだら、俺達も役所へ出しに行こう」
そう言って着物越しに細い身体を抱き締めて口付けた。
「うん……ありがとう、庚」
無人になった蔵の鍵を閉め、互いの腕を組んで母屋へ向かう。
「そうだ。軽トラも修理に出しとかないと。お前の家に荷物も取りに行って、そうだ!肝心の部屋だってまだ準備が全然」
「それは大丈夫。小母様から自分の部屋を使うように言われているから。片付けも皆で少しずつしていけばいいんだし、焦る必要なんて無いわ」
「そ、そうか?」
くすくす。
「うん。庚は鈍いんだから、そんなに気忙しくしてると転んじゃうわよ」
数時間後には妻になる同級生は、そう言って白い歯を見せた。
「さ、ちょっと遅いけどまずは朝食にしましょ。私が作っていい?」
「ああ、頼む」婚姻届を抓み、「その間に俺はこれ書いているから」
「ええ。出来たら両小父様を呼んで来てね」
「ああ」
(柚芽は俺が必ず幸せにする。だからばっちゃ―――これからも月で見守っててくれよな)
強くなりつつある夏の朝日の下、俺達はもう一度キスをした。




