第九話 悪役令嬢、ライバル出現
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第九話 悪役令嬢、ライバル出現
「代表選抜試験は明後日。個人戦・ペア戦、それぞれの希望を今日中に提出してください」
教官の言葉に、教室のあちこちで相談が始まった。
「ペア戦、誰と組む?」
「私、リリアーナ様と組みたいけど、さすがに畏れ多いよね……」
リリアーナは、提出用紙を前に、腕を組んで唸っていた。
(ペア戦の希望欄……セレスティアの名前を書きたいけれど、書いたら絶対、変に思われるわ)
(でも、他の誰かと組んだら、あの子が別の誰かと組むことになるわけで……それは、それで……)
「――何を悩んでいるの、リリアーナ様」
声をかけられ、顔を上げると、そこには見覚えのない女生徒が立っていた。
銀色の長い髪を高く結い上げ、堂々とした立ち姿。胸には隣国からの留学生であることを示す紋章がついていた。
「あなたは……?」
「イザベラ・クロンヴェルト。隣国クロンヴェルト公国から来た留学生よ」
イザベラは、優雅に一礼した。
「今回の魔法大会、噂に聞くセレスティア・ルミナス様と、ぜひペアを組ませていただきたいの」
「――は?」
リリアーナの声が、思わず裏返った。
「聖女候補として名高い方と組めば、私の魔法の腕前も、より輝くというもの。それに」
イザベラは、リリアーナをじっと見つめた。
「噂の『悪役令嬢様』が、随分と彼女に執着していると聞いたものだから。少し、興味が湧いたの」
「な、執着ですって!? 誰がそんな――」
「あら、違うの? 学園祭でも、舞踏会でも、認定式でも、いつもセレスティア様のそばにいらっしゃるとか」
「そ、それは……!」
(違う、あれは全部、たまたまで、成り行きで……!)
「ふふ、図星のようね」
イザベラは、扇で口元を隠しながら微笑んだ。
「では、正々堂々と、彼女を私のペアに誘わせていただくわ。もし嫌なら――」
その視線が、まっすぐにリリアーナへ向けられる。
「あなたが、先に誘えばいいだけの話でしょう?」
「な……!」
リリアーナは、言葉に詰まった。
(そ、そんなの、簡単に言ってくれるけど……!)
* * *
放課後、リリアーナは提出用紙を握りしめたまま、中庭でセレスティアを探していた。
(誘うって、なんて誘えばいいのよ……「一緒に組みなさい」なんて、いつもの調子で言えば変じゃないかしら……いや、それでいいのかしら……)
悶々と考えながら歩くうち、噴水のそばでセレスティアを見つけた。
「セレスティア!」
「あ、リリアーナ様」
駆け寄ったリリアーナは、勢い任せに言い放った。
「ペア戦、私と――」
言いかけたところで、噴水の縁の段差に気づかず、盛大に躓いた。
「リリアーナ様!?」
「だ、大丈夫! なんでもないから!」
慌てて体勢を立て直し、リリアーナは仕切り直した。
「ペア戦、私と組みなさい」
「はい、喜んで」
セレスティアは、ふふ、と笑った。
「もし誘っていただけなかったら、私からお願いしようと思っていたんです」
「な……あなたから?」
「はい。他の方から、色々お誘いをいただいていたので」
「そ、それは、まさか、クロンヴェルトの――」
「ええ。イザベラ様からも、丁寧にお誘いいただきました」
「なっ……!」
(や、やっぱり!)
「でも、私が一番組みたいのは、リリアーナ様でしたから」
その言葉に、リリアーナは思わず言葉を失った。
「な、なんでよ……私と組んだって、面倒なことが多いだけよ」
「面倒だなんて思いません」
セレスティアは、まっすぐにリリアーナを見つめた。
「リリアーナ様と一緒なら、どんな試練でも乗り越えられる気がするので」
「……そう。まあ、あなたがそう言うなら、仕方ないから、組んであげるわ」
「はい、よろしくお願いします」
* * *
その一部始終を見ていたイザベラは、少し離れた場所で、くすりと笑った。
(あら、先を越されてしまったわね)
「イザベラ様、残念でしたね」
付き添いの生徒が声をかけると、イザベラは首を振った。
「いいえ、これでいいのよ」
「と、言いますと?」
「あの二人の様子、しっかり見せてもらったもの」
イザベラは、興味深そうに噴水の方を見やった。
「噂通り、いえ、噂以上ね。あの『悪役令嬢』様、口ではあれこれ言っているけれど……」
「けれど?」
「誰よりも分かりやすい」
イザベラは、扇を閉じながら微笑んだ。
「私は、個人戦に切り替えるとしましょう。あの二人の邪魔をするのは、少し野暮というものだわ」
「よろしいのですか、留学の目的の一つが、有力貴族との縁作りだったのでは」
「あら、縁作りなら、もっと面白い形で果たせそうよ」
イザベラの視線の先で、リリアーナとセレスティアが並んで歩いていく後ろ姿が、小さく揺れていた。
<続きます>
次回予告:ペアを組んだリリアーナとセレスティアの特訓が始まる。息を合わせた連携魔法の練習は、思いのほか二人の距離を縮めることに――。




