第十話 悪役令嬢、息を合わせる
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十話 悪役令嬢、息を合わせる
「ペア戦の連携魔法は、二人の魔力の波長を合わせることが基本です」
指導にあたる教官の説明を、リリアーナとセレスティアは並んで聞いていた。
「波長を合わせる、というのは?」
「簡単に言えば、互いの魔力の流れを感じ取り、呼吸を合わせるということです。最初は、手を繋いで魔力を流し合う練習から始めるのが一般的ですね」
「て……手を繋ぐ?」
リリアーナの声が、思わず上ずった。
「はい。信頼関係が薄いペアだと、この段階で苦労することが多いのですが……お二人は、心配なさそうですね」
「な、なんでそう思うのよ」
「いえ、なんとなく」
教官は、意味深に微笑んで去っていった。
* * *
「では、リリアーナ様。手を」
「わ、わかっているわよ! 練習でしょう、練習!」
リリアーナは、動揺を押し隠すように、勢いよくセレスティアの手を取った。
「魔力を、少しずつ流します」
「え、ええ」
セレスティアの魔力が、リリアーナの手のひらを通じて流れ込んでくる。温かく、澄んだ、それでいてどこか包み込むような感触だった。
(これが、あの子の魔力……)
リリアーナも、自分の魔力を少しずつ流し始める。二つの魔力が触れ合い、やがて自然に波長を合わせていくのが分かった。
「あ……」
「な、何よ」
「リリアーナ様の魔力、思っていたより、優しい感じがします」
「な……優しいって、私の魔力は闇属性よ。優しいわけないでしょう」
「でも、私にはそう感じます」
セレスティアは、目を細めて微笑んだ。
「力強いけれど、乱暴じゃない。……守ってくれる魔力、という感じがします」
「な、なにを勝手に感想を……!」
リリアーナは、顔が熱くなるのを感じながら、視線を逸らした。
(守ってくれる、なんて……そんな風に感じてくれていたなんて、知らなかったわ)
* * *
特訓は、数日にわたって続いた。
波長合わせから始まり、簡単な連携攻撃、防御の連動――少しずつ、二人の呼吸は合っていった。
「せーの!」
二人の詠唱がぴったりと重なり、光の奔流が的に向かって放たれる。着弾の瞬間、演習場全体が眩い光に包まれた。
「や、やった……!」
「成功です、リリアーナ様!」
興奮したセレスティアが、思わずリリアーナに抱きついた。
「な、なな……!」
突然の密着に、リリアーナは硬直した。
(な、なに、この状況……! 心臓が、うるさい……!)
「す、すみません、つい嬉しくて……」
「べ、別に、いいけど……」
(本当は、もう少し、このままでも……いえ! 何を考えているのよ、私!)
「リリアーナ様、顔が真っ赤ですよ」
「う、運動したからよ! 魔力操作は体力も使うんだから!」
「そうなんですか?」
「そうなの!」
リリアーナは、自分でもよく分からない理屈で押し切った。
* * *
その様子を、演習場の隅で見守っていたミリアが、こっそりとため息をついた。
(お嬢様……その理屈、無理がありますよ)
「殿下、また覗いていらっしゃったんですね」
「レオン、静かに」
柱の陰から様子を伺うアルベルトは、手帳を握りしめたまま固まっていた。
「殿下?」
「今、非常に高度な尊さを目撃した。処理に時間がかかっている」
「殿下、いつもそう仰っていますが」
「毎回、更新されていくのだ、尊さの最高記録が」
アルベルトは、深く息をついた。
「彼女は、自分の想いにまるで気づいていない。それがまた、尊い」
「殿下、それはもう、婚約者様への感想として少し複雑では」
「わかっている。だが、私は記録者としての矜持を守り続ける」
「その矜持、いつまで持つんでしょうね」
* * *
特訓の帰り道、二人並んで歩きながら、セレスティアがふと呟いた。
「リリアーナ様、大会本番が楽しみですね」
「そ、そうね。負けるつもりはないもの」
「私も、リリアーナ様と一緒なら、絶対に大丈夫だと思います」
「な……そんなに簡単に信頼されても、困るのだけれど」
「困りますか?」
「べ、別に、困らないけど……」
(正直に言えば、嬉しいのだけれど……そんなこと、絶対に言わないんだから)
「ふふ、リリアーナ様のそういうところ、好きです」
「なっ……!」
リリアーナは、思わず足を止めた。
「す、好きって……!」
「はい。一緒にいると、飽きないですし、楽しいので」
(な、なんだ……そういう意味……)
安堵とも、微かな落胆ともつかない感情が、リリアーナの胸の中で入り混じった。
(なによ、この、変な感じ……)
本人だけが、その正体にまるで気づかないまま、二人は夕暮れの道を並んで歩いていった。
<続きます>
次回予告:魔法大会当日。リリアーナとセレスティアのペアは、次々と強豪を打ち破っていく。しかし決勝の相手には、思わぬ因縁が――。




