第十一話 悪役令嬢、大会に挑む
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十一話 悪役令嬢、大会に挑む
魔法大会当日。
王立アルカディア学園の闘技場は、他国からの観客も含めて満員の熱気に包まれていた。
「第一試合、ヴァルフェルト・ルミナスペア、対戦相手は――」
実況の声が響き渡る中、リリアーナは対戦相手の名を聞いて、思わず眉をひそめた。
「フェリシア・フォン・ダレンベルク……?」
小柄な少女が、闘技場の反対側に姿を現した。ダレンベルク家の紋章を模した髪飾りを身につけている。
「ダレンベルクって、まさか……」
「ゲオルグ・フォン・ダレンベルクの、妹よ」
セレスティアが、緊張した面持ちで呟いた。
闘技場の中央、フェリシアはリリアーナたちをまっすぐに睨みつけていた。
「――ヴァルフェルト様」
「なに?」
「兄は、爵位を返上し、隠居することになりました。すべて、あなたのせいで」
「それは、あなたの兄が不正をしたから――」
「知っています。それでも」
フェリシアの瞳に、強い光が宿った。
「私の家族を壊した相手に、大人しく負けてあげるつもりはありません」
* * *
「試合開始!」
合図と同時に、フェリシアは驚くべき速さで距離を詰めてきた。
「速い……!」
「後ろに!」
セレスティアの防御魔法が、間一髪でリリアーナを守る。
「感謝するわ」
「いえ、これくらい」
二人は素早く連携を組み直し、態勢を立て直した。
(この子、相当な使い手ね。しかも、動きに迷いがない……本気で私を潰そうとしている)
フェリシアの攻撃は、技術的にも高く、また執念を感じさせるほどの粘り強さがあった。
「フェリシア様、なぜそこまで……」
セレスティアが、攻防の合間に問いかける。
「なぜ、ですって?」
フェリシアの声に、初めて感情の揺れが混じった。
「兄は確かに、間違ったことをしました。でも――家族を全員、社交界から締め出されるようなことまで、しなければならなかったんですか」
「それは……」
「私も、弟も、何も知らなかった。それでも周りは、私たちを『あの家の人間』として、これまでの居場所から遠ざけました」
フェリシアの魔力が、一段と激しさを増す。
「せめて、この大会で結果を出さなければ、私の居場所はどこにもなくなる……!」
* * *
激しい攻防が続く中、リリアーナはふと、フェリシアの表情に既視感を覚えた。
(この子……周りの評価に振り回されて、必死に足掻いている……)
(まるで、私が「悪役令嬢」を演じることで、自分の立ち位置を守ろうとしているのと、同じじゃない)
「セレスティア」
「はい」
「少し、作戦を変えるわ」
リリアーナは、魔力の構築を切り替えた。攻撃ではなく、防御と均衡を保つための構成に。
「攻撃を、緩めるんですか?」
「潰すためだけの試合なら、勝っても後味が悪いもの」
リリアーナは、フェリシアに向かって声を張った。
「フェリシア・フォン・ダレンベルク!」
「なんですか、今更」
「あなたの兄がしたことと、あなた自身の努力は、別のものよ。この試合で、それを証明すればいいだけの話でしょう」
「な……」
「私たちは全力で相手をするわ。だから、あなたも、家名のためじゃなく、自分自身のために戦いなさい」
フェリシアは、一瞬言葉を失った。
* * *
結果として、試合はリリアーナたちの勝利に終わった。
しかし決着の瞬間、フェリシアの表情には、悔しさだけでなく、どこか晴れやかなものが浮かんでいた。
「……完敗です」
「いい試合だったわ」
「あなたに、そんな風に言われるとは思いませんでした」
フェリシアは、複雑な表情でリリアーナを見つめた。
「悪役令嬢だと聞いていたので、もっと嫌な人だと思っていました」
「勘違いしないで。私はれっきとした悪役令嬢よ。ただ、無意味に人を傷つける趣味はないだけ」
「……その理屈、よく分かりませんが」
「はい、そういうことにしておきます」
セレスティアが、いつもの調子で微笑みながら付け加えた。
フェリシアは、闘技場を後にしながら、小さく呟いた。
「家名じゃなく、自分自身のために……か」
その言葉を、誰にも聞かれないように、そっと胸にしまった。
* * *
観客席では、アルベルトが目頭を押さえていた。
「殿下、また泣いているんですか」
「泣いていない。目にゴミが入っただけだ」
「そのゴミ、随分と頻繁に入りますね」
「敵対する相手にすら、更生の機会を与える寛容さ……尊すぎる」
ミリアも、観客席の隅で静かに拍手を送っていた。
(お嬢様……ちゃんと、悪役令嬢の皮を被った優しい方ですね)
<続きます>
次回予告:勝ち進むリリアーナとセレスティアのペアは、決勝戦へ。相手は、隣国からの留学生イザベラ・クロンヴェルトが率いる、実力派のペアだった。




