第八話 悪役令嬢、贈り物をする
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第八話 悪役令嬢、贈り物をする
特訓が始まってから、一週間が経った。
リリアーナはもう、平坦な道で転ぶことはほとんどなくなっていた。まだ全力疾走となると危ういが、日常の歩行程度なら問題ない。
(あの子のおかげ、というのは……認めたくないけれど、事実ではあるわね)
放課後、リリアーナは自室でミリアの焼いた焼き菓子を包みながら、そわそわと落ち着かない様子だった。
「お嬢様、そのリボン、もう三十分は選んでいらっしゃいますが」
「う、うるさいわね! 包装だって、悪役令嬢としての体裁を保つには重要なのよ! 適当なリボンで渡すわけにいかないでしょう!」
「はあ、左様で」
ミリアは、口元をそっと隠しながら微笑んだ。
(お嬢様……たかがお礼の菓子に、こんなに悩まれて……本当に分かりやすい方)
* * *
中庭のベンチで、セレスティアは読書をしていた。
「セレスティア・ルミナス」
「あ、リリアーナ様」
声をかけながら近づくリリアーナは、少しそっぽを向きながら、小さな包みを差し出した。
「……これ」
「え?」
「勘違いしないで。特訓に付き合ってもらったから、その……お礼よ」
セレスティアは、目を輝かせて包みを受け取った。
「ありがとうございます!」
「べ、別に私が作ったわけじゃないわ! ミリアが焼いたものだから!」
「はい」
「『はい』じゃなくて! 私は何も作ってないの!」
「でも、リリアーナ様が私のために選んでくださったんですよね?」
「そ、それは……!」
「それだけで十分嬉しいです」
リリアーナは、顔を真っ赤にして目を逸らした。
「……ほんと、調子が狂うんだから」
「ふふ、開けてもいいですか?」
「す、好きにしなさい」
包みを開けたセレスティアは、丁寧に結ばれたリボンをそっと指でなぞった。
「このリボンの色、私が普段身につけている色と、同じですね」
「な……偶然よ、偶然! たまたま目についただけで、他意なんてないんだから!」
(バレた……いえ、偶然を装いきれば大丈夫……!)
「ふふ、そういうことにしておきます」
セレスティアは、菓子を一つ口に運び、嬉しそうに目を細めた。
「美味しいです。ミリアさんに、お礼を伝えておいてくださいね」
「ええ、伝えておくわ」
(本当は、味見のとき、私が一番気に入ったのを選んだのだけれど……それは、言わなくていいわね)
* * *
その様子を、少し離れた木陰から見ていたミリアは、こっそりため息をついた。
(お嬢様……包みのリボンは三十分も悩んで選んでいらっしゃったのに、「たまたま」だなんて、よくそんな顔で仰れるものだわ)
さらに、その少し向こうの茂みからも、視線が注がれていた。
「レオン、見たか。あれを」
「殿下、また覗いていらっしゃったんですか」
「婚約者が、贈り物をする姿……尊い」
アルベルトは、感極まったように胸を押さえていた。
「あんなに緊張しながら、あんなに不器用に、それでも精一杯の気持ちを込めて贈り物を選んでいる……あの照れ隠しの多さが、また尊さを増している」
「殿下、婚約者様が別の方に贈り物をしている光景に、複雑な感情は湧かないのですか」
「湧かないと言えば嘘になる。だが、それ以上に尊さが勝る」
「殿下のその情緒、そろそろ心配になってきました」
「案ずるな、レオン。私はただの、記録者だ」
「先週も同じことを仰っていました」
* * *
数日後の朝礼で、担任教師が声を張り上げた。
「来月、学園対抗魔法大会が開催されます。各学年から選抜代表を選出しますので、志望者は――」
教室がざわめいた。
魔法大会は、王立アルカディア学園にとって一年で最も大きな行事の一つだった。他国の名門学園も参加する国際色豊かな大会であり、代表に選ばれることは、学園内での名誉であると同時に、卒業後の進路にも大きく影響する。
「リリアーナ様、絶対に選ばれますよね」
「当然でしょう。私の魔力操作技術は、この学年で並ぶ者はいないもの」
自信満々に言い放つリリアーナだったが、内心では別のことを考えていた。
(大会形式によっては、団体戦もあるはず。もし、セレスティアと同じチームになったら……)
ふと、掲示板に貼り出された大会要項に目をやる。
「――個人戦の他に、二人一組でのペア戦もあり、か」
(ペア戦。もし、あの子と組むことになったら……)
想像しかけて、リリアーナは慌てて首を振った。
(な、なに考えているのよ、私。別に、組みたいとか、そんなこと考えてないんだから!)
その頬が、ほんのりと赤らんでいることに、本人はまるで気づいていなかった。
<続きます>
次回予告:魔法大会の代表選抜が始まる。ペア戦の組み合わせを巡り、思わぬライバルが名乗りを上げて――。




