表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/11

第五話 悪役令嬢、疑われる

『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』


第五話 悪役令嬢、疑われる


 聖女認定式当日。


 大講堂には王族、貴族、そして学園の生徒たちが詰めかけていた。祭壇の上には、あの水晶球型の魔道具が厳かに安置されている。


「これより、聖女候補セレスティア・ルミナスの資質評価を執り行う」


 司会を務める神官の声が、静まり返った講堂に響いた。


 セレスティアが祭壇の前に進み出て、水晶球に手をかざす。


 光が満ち、数値が浮かび上がる――はずだった。


「――お待ちを」


 声を上げたのは、玉座近くに控えていたアルベルトだった。


「この魔道具には、細工が施されています。数値を意図的に三割減で表示する術式が」


 講堂がどよめいた。


「殿下、それはいったい――」


「証拠はこちらに。それと、細工を指示した人物の名も」


 アルベルトが示した資料に、審査官の一人と、ダレンベルク家の使者との書簡のやり取りが記されていた。


「なっ……!」


 審査官席で、ゲオルグ・フォン・ダレンベルクの顔から血の気が引いた。


「殿下、これは何かの誤解で――」


「誤解ではない。術式の痕跡も、書簡の筆跡も、全て裏が取れている」


 衛兵がゲオルグと審査官を取り押さえる中、講堂全体がざわめきに包まれた。


「ダレンベルク家が、聖女様の評価を不正に貶めようとしていたなんて……」


「でも、殿下はどうやってこの証拠を?」


 その問いに、アルベルトは静かに答えた。


「深夜、単身この講堂に忍び込み、細工を見破った者がいる」


 視線が集まる中、アルベルトは一瞬迷った後、名を告げた。


「――ヴァルフェルト公爵令嬢、リリアーナだ」


「え……」


 講堂中の視線が、リリアーナに集中した。


   *   *   *


「悪役令嬢様が……聖女様の認定式のために、証拠を?」


「それって、まさか、前から不正に気づいていたってこと?」


 ざわめきの中に、少しずつ違う色の声も混ざり始めた。


「待って……逆に考えたら、変じゃない?」


 一人の令嬢が、眉をひそめて呟いた。


「深夜に一人で講堂に忍び込んで、魔道具に細工を見破れるほど詳しいなんて……ヴァルフェルト様、最初から魔道具の術式に詳しかったってこと?」


「それに、ダレンベルク家が動く前から、リリアーナ様はセレスティア様に『ダンスの誘いを受けるな』って忠告していたって話もあるし……」


「まさか……全部、ヴァルフェルト様が仕組んでいたんじゃ……」


「ヴァルフェルト様がダレンベルク家と裏で繋がってて、自作自演で『聖女を救った悪役令嬢』を演じているとか……」


 小さな声だったが、それは水面に落ちた一滴のように、じわじわと講堂中に広がっていった。


「なっ……」


 リリアーナは、思わず息を呑んだ。


(な、なにそれ……! 自作自演って、私が!?)


「そ、それは違う! 私は、ただ――」


 言い返そうとした瞬間、セレスティアが一歩前に出た。


「皆さん、それは違います」


 澄んだ声が、講堂に響き渡った。


「リリアーナ様は、私に危険を教えてくださって、そして本当に、身を挺して不正の証拠を集めてくださいました。それのどこが、自作自演だと仰るのですか」


「で、でもセレスティア様、それは……」


「私は、リリアーナ様が誰よりも私を大切にしてくださっていることを、知っています」


 セレスティアは、まっすぐにリリアーナを見つめた。


「疑うのでしたら、まずご自身の目で、リリアーナ様の行動をきちんと見てから仰ってください」


 その言葉に、ざわめきが少しずつ静まっていく。


 しかし――完全に消えたわけではなかった。ひそひそと囁く声が、講堂の隅に、確かに残っていた。


   *   *   *


 式が終わった後、控えの間でリリアーナは一人、拳を握りしめていた。


「なによ、あれ……自作自演って、何をどう見たらそうなるのよ」


「お嬢様……」


 ミリアが、そっと寄り添う。


「大丈夫ですか」


「別に、平気よ。悪役令嬢が疑われるなんて、いつものことだもの」


 そう言いながらも、リリアーナの声は、いつもより少し小さかった。


(悪役令嬢だから疑われるのは、望んでいたことのはずなのに……なんで、こんなに)


 そこへ、ノックの音がした。


「リリアーナ様」


 入ってきたのは、セレスティアだった。


「あなた……何しに来たの」


「リリアーナ様が、傷ついていないか心配で」


「傷つくわけ、ないでしょう。私は悪役令嬢よ。疑われるのなんて、慣れているわ」


「はい、そういうことにしておきます」


 セレスティアは、リリアーナの隣にそっと腰を下ろした。


「でも私は、これからも言い続けます。リリアーナ様は優しい方だって。何度でも、誰の前でも」


「な……そんなこと、いちいち言わなくていいのよ」


「言います。だって本当のことですから」


 リリアーナは、思わず顔を背けた。


(この子は、いつもこうやって、私の一番弱いところに、まっすぐ入ってくるんだから……)


   *   *   *


 その夜、王城の一室。


「殿下、審議の結果、ダレンベルク家は爵位返上、当主の隠居が決定いたしました」


「妥当な処置だな」


 アルベルトは報告を聞きながら、窓の外を見つめていた。


「だが……講堂で流れたあの噂、放っておいていいものか」


「リリアーナ様への疑惑、ですか」


「ああ。今日のところは、セレスティア嬢の一言で収まった。だが、火種は消えていない」


 アルベルトの表情が、珍しく曇った。


「悪役令嬢という評判は、諸刃の剣だ。彼女の本質を知る者には尊さの証となるが……知らぬ者には、いくらでも悪意に解釈される」


「殿下……」


「今はまだ、いい。だが、いつかこの噂が――」


 言いかけて、アルベルトは首を振った。


「いや、今は考えすぎだな。今日のところは、めでたしとしよう」


 窓の外には、静かな夜空が広がっていた。


<続きます>


次回予告:疑惑の噂は表向き収まったかに見えたが、学園の一部にはまだ燻り続けていた。リリアーナはそれに気づきながらも、いつも通りセレスティアの前では強気な態度を崩さない。そんな中、新学期の魔法試験が近づき――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ