第十八話 悪役令嬢、戦う
すみません。下書きしたまま投稿してなかったので、話が飛んでいたことに全く気づいてませんでした。
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十八話 悪役令嬢、戦う
「――誰かいるな」
フードの男の一人が、物陰に潜む二人の気配に気づいた。
(見つかった……!)
「セレスティア、私の後ろに」
リリアーナは、セレスティアを庇うように前へ出た。
「ほう。学生か。しかも――」
フードの奥から覗く目が、細められる。
「聖女候補と、その連れか。都合がいい」
「あなたたち、黎明教団ね」
「よく知っているじゃないか」
男は、愉快そうに笑った。
「ならば話が早い。大人しく、その聖女を渡してもらおうか」
「――お断りよ」
リリアーナは、魔力を練り上げながら、静かに、しかしはっきりと告げた。
「彼女には、指一本触れさせない」
「悪役令嬢とやらが、随分と勇ましいことだな」
「悪役令嬢だからこそよ。悪意には、悪意で応えるものでしょう」
* * *
戦闘は、一瞬で始まった。
「くっ……!」
複数の敵の連携攻撃に、リリアーナは防御魔法を張りながら後退する。
「リリアーナ様、私も戦います!」
「駄目よ! あなたは、下がっていて!」
「でも――」
「あなたが狙われているのよ! これ以上、危険に晒すわけにはいかないわ!」
リリアーナは叫びながら、反撃の魔法を放った。狭い地下空間での戦闘は、相手の数の利が生きやすく、次第に劣勢に追い込まれていく。
(まずいわね……このままだと)
「往生際が悪いな、令嬢」
男の一人が、リリアーナに向けて強力な拘束魔法を放った。
「リリアーナ様!」
咄嗟に割って入ろうとしたセレスティアを、リリアーナは強く突き飛ばした。
「馬鹿……! 下がっていろって、言ったでしょう……!」
拘束魔法をまともに受け、リリアーナはその場に片膝をついた。
「リリアーナ様……!」
セレスティアの声が、悲痛に響いた。
* * *
「聖女よ、大人しく従うなら、その令嬢の命は助けてやろう」
男が、セレスティアに向けて手を伸ばす。
(このまま、渡すわけには……!)
セレスティアは、震える手を握りしめた。
(怖い。……でも)
脳裏に、これまでのリリアーナとの日々が過った。花壇の一件、薬草茶、舞踏会、認定式、魔法大会、聖夜祭、生徒会――そのどれもが、素直になれないながらも、いつも自分を守り、支えてくれた記憶だった。
(リリアーナ様が、私のために、こんなに傷ついてまで守ろうとしてくれているのに……)
(私も、負けていられない)
「――やめてください」
セレスティアの声が、静かに、しかし強く響いた。
「あなたたちの目的が何であれ、リリアーナ様を傷つけることは、絶対に許しません」
その瞬間、セレスティアの体から、淡い光が溢れ出した。
「これは……!」
男たちが、驚愕の表情を浮かべる。
「聖女の力が、覚醒しかけている……!」
「まさか、この段階で……!」
光は、拘束魔法に囚われていたリリアーナを包み込み、その拘束を静かに解いていった。
「リリアーナ様、大丈夫ですか!」
「……ええ。ありがとう」
立ち上がったリリアーナは、驚いた表情でセレスティアを見つめた。
(今の光……あの子の力が、目覚めかけている?)
* * *
「これ以上は、面倒だ。一旦、引くぞ」
男たちの一人が、苦々しげに告げた。
「聖女の覚醒の兆候、上への報告が必要だ」
「くっ……逃すか!」
リリアーナが追撃しようとした瞬間、男たちの姿は闇に溶けるようにして消え去った。
「……逃げられたわね」
「リリアーナ様、お怪我は」
「平気よ。それより、あなたのほうが」
リリアーナは、セレスティアの顔を覗き込んだ。
「今の力、初めて見たわ。大丈夫?」
「はい……なんだか、少し不思議な感覚でしたけど、体は平気です」
「そう。……ありがとう、助けてくれて」
「いいえ」
セレスティアは、首を振った。
「リリアーナ様が、私を守ろうとしてくれたから、私も頑張れたんです」
「な……」
リリアーナは、思わず目を逸らした。
(この子に守られるなんて……悪役令嬢としては、情けない話だけれど)
(でも、悪い気分じゃないわ)
* * *
しばらくして、教官と生徒たちが二人を発見し、無事に合流を果たした。
「良かった……! 二人とも、無事だったのね!」
「先生、実は――」
リリアーナは、黎明教団との遭遇について詳細を報告した。
「黎明教団……王家にも報告しなければ」
「はい。よろしくお願いします」
その夜、遺跡の外に設営された野営地で、リリアーナとセレスティアは、並んで焚き火を見つめていた。
「今日は、本当に怖かったです」
「そうね」
「でも」
セレスティアは、リリアーナの肩に、そっと頭を預けた。
「リリアーナ様が一緒にいてくれたから、最後まで頑張れました」
「な、な……!」
突然の密着に、リリアーナは硬直した。
「い、いきなり、何を……!」
「疲れたので、少しだけ」
「べ、別に、いいけど……」
焚き火の温かな光に照らされながら、リリアーナはそっと肩の力を抜いた。
(この子の力が、目覚めかけている……ということは、黎明教団の狙いも、いよいよ本格化するかもしれない)
(でも、今この瞬間だけは、少しだけ、何も考えずにいたい)
夜空には、静かに星が瞬いていた。
<続きます>
次回予告:遺跡実習から帰還した学園に、王家からの正式な使者が訪れる。聖女の覚醒と黎明教団の存在が、いよいよ表沙汰になろうとしていた。




