第二十一話 悪役令嬢、嵐の前を歩く
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第二十一話 悪役令嬢、嵐の前を歩く
深夜、学園の裏門付近で、警備の魔法陣が突如として反応した。
「侵入者だ! 東の裏門!」
王家直属の護衛騎士たちが、一斉に現場へ向かう。
「――くっ、感づかれたか」
黒ずくめの人影が数名、闇に紛れて逃走を図る。
「待て!」
騎士たちの追撃を振り切り、影は塀の外へと消えていった。
「取り逃がしたか」
「申し訳ございません、殿下」
翌朝、王城から急遽学園を訪れたアルベルトは、報告を受けて表情を険しくした。
「侵入経路と目的は」
「痕跡から見て、聖女候補の寮への潜入を試みたものと思われます」
「――やはり、教団の仕業か」
アルベルトは、拳を強く握りしめた。
「これ以上、後手には回れない」
* * *
学園長室に招集されたリリアーナとセレスティアに、アルベルトは一つの提案を伝えた。
「近く、聖女の力を正式に王国の守護として認定する、『大魔法発表会』を開催することになった」
「発表会……ですか」
「聖女の力を、公の場で正式に披露し、王国全体の守護として認めさせる儀式だ。これにより、聖女への攻撃は、王国そのものへの攻撃と同義になる。教団も、迂闊には手を出せなくなるはずだ」
「なるほど……」
「同時に、これは諸刃の剣でもある。発表の場に、教団が乗じてくる可能性も、当然ある」
アルベルトの視線が、リリアーナに向けられた。
「リリアーナ、その場での警護、頼めるか」
「言うまでもないでしょう」
リリアーナは、迷いなく頷いた。
* * *
発表会の準備が進む中、学園には、少しずつ緊張感が漂い始めていた。
「大魔法発表会、随分と大掛かりになるみたいだね」
「聖女様の力を、王国全体に見せるんだって」
「そういえば、ヴァルフェルト様が警護につくって噂だけど……」
その声に、少し複雑な色が混じっているのを、リリアーナは廊下の陰で耳にしてしまった。
「ヴァルフェルト様の魔力って、闇属性なんでしょう? 聖なる儀式の場に、そんな属性の人がいて大丈夫なのかな」
「でも、認定式のときも、魔法大会のときも、ちゃんと守ってくれていたし」
「うーん、でも念のためというか……昔から、悪役令嬢って呼ばれてたわけだし」
「あ、待って、噂だけど――『自作自演』の件、まだ気にしてる人もいるみたいだよ」
「え、あの話、まだ言われてるの?」
「一部だけどね。あれだけ目立つ場所にいつも一緒にいたら、勘繰る人もいるでしょう」
リリアーナは、静かにその場を立ち去った。
(……相変わらず、消えない噂もあるのね)
(別に、今更、気にすることでもないけれど)
そう自分に言い聞かせながらも、胸の奥に、小さな棘が刺さったような感覚が残った。
* * *
その夜、生徒会室で書類仕事をしていたセレスティアが、ふと切り出した。
「リリアーナ様、最近、少し元気がないように見えます」
「そんなことないわよ」
「本当ですか?」
「本当よ」
セレスティアは、少しの間、じっとリリアーナを見つめていたが、やがて静かに言った。
「もし、誰かが変なことを言っていたとしても……私は、リリアーナ様がどんな方か、ちゃんと分かっています」
「な……」
(この子、また、見透かして……)
「それに」
セレスティアは、微笑みながら続けた。
「発表会の日、私の隣にいてくださるのが、リリアーナ様で、本当に良かったと思っています」
「……ありがとう」
珍しく、リリアーナは素直にその言葉を受け取った。
(この子がいてくれれば、噂なんて、どうでもいいと思えるのだけれど……)
* * *
発表会前夜、王城の一室で、アルベルトは一人、資料に目を通していた。
「殿下、まだお休みにならないのですか」
「レオン……正直、嫌な予感がしている」
「嫌な予感、ですか」
「教団の動きが、これほど静かなのが、逆に不気味だ。何か、こちらの想定していない手を打ってきているんじゃないか、と」
アルベルトは、資料を机に置き、深く息をついた。
「それに、リリアーナへの根拠のない噂も、まだ燻り続けている。……こういうときに限って、悪い偶然が重なるものだ」
「殿下……」
「杞憂であればいいのだが」
窓の外には、明日の発表会を控えた、静かな夜が広がっていた。
<続きます>
次回予告:大魔法発表会、当日。晴れ舞台のはずのその場で、誰も予想しなかった魔力の暴走が起こる。




