第二十話 悪役令嬢、街に出る
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第二十話 悪役令嬢、街に出る
「休日の外出、王都への同行を許可する。ただし、護衛を一名つけること」
アルベルトからの通達を受け、リリアーナは腕を組んで頷いた。
「息抜きも必要、ということね」
「はい。最近、少し気が張り詰めていましたから」
セレスティアも、どこか嬉しそうな表情を浮かべていた。
「リリアーナ様と、街に出かけるの、初めてですね」
「そ、そうね。まあ、たまには、いいんじゃないかしら」
(別に、楽しみにしているわけじゃないんだから……いえ、正直に言えば、少し楽しみだけど)
* * *
休日の王都は、多くの人で賑わっていた。
「わあ……! こんなに人がいるんですね」
「学園の外に出ることなんて、あまりないものね」
護衛として付き添うのは、レオンだった。適度な距離を保ちながら、二人を見守っている。
「まずは、どこに行きましょうか」
「そうね……」
リリアーナは、懐から一枚の紙を取り出した。そこには、几帳面な字で、王都の店の名前がびっしりと書き込まれている。
「な、なにその紙」
「べ、別に、なんでもないわ!」
慌てて紙を隠そうとするリリアーナに、セレスティアが目を丸くした。
「もしかして、事前に調べてくださったんですか」
「ち、違うわよ! たまたま、目についただけで――」
「見せてください」
「や、やめなさい!」
結局、押し問答の末に紙を奪われたセレスティアは、そこに書かれた内容を見て、思わず笑みをこぼした。
「甘味処、雑貨屋、本屋……全部、私が好きそうなお店ばかりですね」
「べ、別に、あなたの好みなんて、考えて選んでないんだから!」
「本当ですか?」
「ほ、本当よ!」
(本当は、この一週間、こっそり色んな人に聞き込みをして調べたんだけど……絶対に言えないわ)
* * *
二人は、紙に書かれた店を、順番に回っていった。
「このお店の焼き菓子、すごく美味しいです!」
「そう。良かったわね」
「リリアーナ様も食べてください、あーん」
「な、なにを言って――」
「あーん、です」
有無を言わさぬ様子で差し出された焼き菓子を、リリアーナは仕方なく口に含んだ。
「……美味しいわね」
「でしょう!」
周囲の視線が、微笑ましげに二人に注がれていることに、当のリリアーナはまるで気づいていなかった。
* * *
雑貨屋では、セレスティアが小さな髪飾りを手に取り、じっと見つめていた。
「気に入ったの?」
「はい、可愛いなと思って」
「なら、買えばいいでしょう」
「うーん、でも、今日はもう予算を使い切ってしまって」
「私が買うわ」
「え……」
リリアーナは、店員に代金を差し出し、あっさりと髪飾りを購入した。
「な、なんで……」
「べ、別に、深い意味はないわよ! ただ、あなたが欲しそうにしていたから」
「ありがとうございます」
セレスティアは、その場でさっそく髪飾りをつけた。
「似合いますか?」
「な……」
リリアーナは、その姿を見て、思わず言葉に詰まった。
(似合いすぎて、直視できないわ……)
「リリアーナ様?」
「に、似合っているわよ! 悪くないんじゃない!」
「ふふ、ありがとうございます」
* * *
夕方、噴水広場のベンチで、二人は少し休憩を取った。
「今日は、本当に楽しかったです」
「そう、良かったわね」
「リリアーナ様は、楽しかったですか」
「……まあ、悪くなかったわ」
「それって、楽しかった、ってことですよね」
「な、なんでそういう解釈になるのよ」
「リリアーナ様の『悪くなかった』は、いつも本当は『とても良かった』の意味だって、最近、分かるようになってきました」
「な……」
(この子、いつの間に、そんなに私のことを分かるように……)
「勘違いしないでよね」
「はい、そういうことにしておきます」
夕陽に照らされる噴水広場で、二人は並んで座りながら、静かな時間を過ごしていた。
* * *
少し離れた場所から、その様子を見守るレオンは、小さくため息をついた。
(殿下がいらっしゃれば、また大変なことになっていただろうな……)
「レオン様、随分と静かな警護ですね」
通りすがりの騎士仲間に声をかけられ、レオンは苦笑した。
「今日ばかりは、二人だけの時間を大事にしていただきたくてね」
夕暮れの街並みの中、二人の笑顔は、これから訪れる困難など知らないかのように、穏やかに輝いていた。
(この平穏が、少しでも長く続けばいいのだが……)
レオンの胸には、そんな祈りにも似た思いが、静かに去来していた。
<続きます>
次回予告:束の間の平穏の後、学園に不穏な緊張が走る。黎明教団の動きが、いよいよ本格化しようとしていた。




