第十九話 悪役令嬢、王家の使者を迎える
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十九話 悪役令嬢、王家の使者を迎える
「本日、王家より正式な使者が学園に到着します。生徒の皆さんは、平常通りの生活を心がけてください」
学園長のアナウンスが放送された朝、リリアーナは既に事情を察していた。
(黎明教団の件、いよいよ王家が本格的に動くのね)
* * *
学園長室に招集されたのは、リリアーナ、セレスティア、そして引率教官の三名だった。
「――報告書は、既に目を通した」
王家の使者として訪れたのは、アルベルト自身だった。
「殿下……!」
「セレスティア嬢の力の覚醒、それに黎明教団との接触。事は、私が思っていた以上に深刻なようだ」
アルベルトは、真剣な表情で二人に向き直った。
「黎明教団は、古代の聖女信仰を悪用し、聖女の力を『器』として奪おうとする過激派組織だ。長らく水面下で活動していたが、これほど大胆に接触を図ってくるとは、想定外だった」
「殿下、セレスティアの安全は」
「無論、王家として全力で守る。だが――」
アルベルトは、少し言葉を切った。
「セレスティア嬢の力が本格的に覚醒すれば、その分、教団にとっての価値も高まる。今後、より執拗に接触を図ってくる可能性が高い」
「そんな……」
セレスティアの表情が、不安げに曇った。
「安心しろ。学園には、王家直属の護衛を常駐させる。加えて――」
アルベルトの視線が、リリアーナに向けられた。
「リリアーナ、お前には引き続き、セレスティア嬢の傍にいてもらいたい」
「私、ですか」
「今回の件でも、お前の対応が、教団の即時奪取を防いだ。私は、お前の力を、誰よりも信頼している」
「……分かりました」
リリアーナは、静かに頷いた。
(言われるまでもなく、そのつもりよ)
* * *
会議の後、学園長室を出たところで、セレスティアがぽつりと呟いた。
「私のせいで、皆さんに、こんなにご迷惑をおかけして……」
「何を言っているの」
リリアーナは、きっぱりと言った。
「あなたのせいじゃないわ。あなたは、ただ聖女として生まれただけ。責められる理由なんて、どこにもない」
「でも……」
「それに」
リリアーナは、セレスティアの手を取った。
「私は、迷惑だなんて思っていないわ。あなたを守ることは、私が決めたことだもの」
「リリアーナ様……」
セレスティアの目に、うっすらと涙が浮かんだ。
「ありがとうございます」
「な、泣かなくてもいいでしょう!」
「嬉しくて、つい」
「もう……仕方ないわね」
リリアーナは、少し困った様子で、しかし優しく、セレスティアの涙をそっと拭った。
* * *
その日の夕方、王家直属の護衛騎士たちが、学園に配置された。物々しい雰囲気に、生徒たちの間にも緊張が走る。
「なんだか、物騒になってきたね」
「セレスティア様、大丈夫かな」
「でも、ヴァルフェルト様がついているから、きっと大丈夫だよ」
そんな声が、廊下のあちこちから聞こえてくる。
生徒会室では、リリアーナとセレスティアが、いつも通りの業務をこなしていた。
「こんな状況でも、仕事は溜まる一方ですね」
「そうね。でも、普段通りに過ごすことも、大事だと思うわ」
「はい」
セレスティアは、書類に目を通しながら、ふと呟いた。
「リリアーナ様がいてくださると、こんな不安な状況でも、なんだか安心できます」
「な……そういうこと、簡単に言わないでちょうだい」
「本当のことですから」
二人のやり取りを、部屋の隅で見守っていたミリアが、そっと微笑んだ。
(お嬢様……本当に、大切にされていますね)
* * *
夜、王城に戻ったアルベルトは、レオンとともに今後の対応を検討していた。
「殿下、正直に申し上げますと、この状況は楽観できません」
「分かっている」
「黎明教団が本気で動けば、学園の警備だけでは限界があります。最悪の場合――」
「分かっている、レオン」
アルベルトは、窓の外の夜空を見上げた。
「だが、私はリリアーナを信じている。彼女がいる限り、セレスティア嬢は必ず守られる」
「殿下……」
「それに」
アルベルトの表情が、少しだけ和らいだ。
「あの二人の絆は、私が思っている以上に強い。それは、今回の一件でも証明された」
レオンは、静かに頷いた。
「殿下がそこまで仰るのなら」
「無論だ」
アルベルトは、静かに、しかし確信を込めて呟いた。
「だが――念のため、私自身も、警戒を怠らないようにしよう」
<続きます>
次回予告:物々しい警備の中でも、学園生活は続く。息抜きも兼ねた休日、リリアーナとセレスティアは、二人だけで王都へ出かけることに――。




