第十七話 悪役令嬢、遺跡に挑む
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十七話 悪役令嬢、遺跡に挑む
「本日より三日間、二年生を対象とした遺跡探索実習を行います。行き先は、王国東部『静寂の遺跡』です」
引率教官の説明を、生徒たちは緊張と興奮の入り混じった表情で聞いていた。
「古代文明の遺構が眠る、貴重な実習フィールドです。安全対策は万全ですが、油断は禁物。班ごとの行動を徹底してください」
班分けの結果、リリアーナとセレスティアは同じ班になった。
(よかったわ、同じ班で……いえ、別に、嬉しいとかそういうんじゃないけど)
「よろしくお願いします、リリアーナ様」
「な、なによ、そんな嬉しそうに」
「同じ班になれて、嬉しいので」
「そ、それは……私も、まあ、悪くないと思っているけど」
二人のやり取りを、少し離れた場所で見ていたミリアが、ため息交じりに呟いた。
(お嬢様、また素直じゃない……)
* * *
遺跡は、古代の文明が築いたとされる石造りの建造物群で、深い森の中に静かに佇んでいた。
「うわあ……本当に、遺跡なんですね」
セレスティアが、目を輝かせながら石壁の彫刻を見上げた。
「こういうところに来るの、初めて?」
「はい。聖女教会の資料室で、絵や文献は見たことがありますけど……実物は初めてです」
「ふうん」
リリアーナは、腕を組みながら遺跡を見渡した。
(この様式……古代魔法文明の中でも、かなり特殊な部類ね。もしかして、聖遺物と関連する遺跡なのかしら)
「リリアーナ様、詳しいんですね」
「幼い頃から、家庭教師に叩き込まれたのよ。公爵家の教養として」
「すごいです」
「これくらい、当然でしょう」
* * *
班ごとの調査活動が始まり、リリアーナたちの班は、遺跡の奥にある「祭壇の間」と呼ばれる区画を任された。
「この文様……見たことのない形式ね」
祭壇の中央には、古びた石碑が立っており、精緻な魔法陣が刻まれていた。
「先生、この石碑は?」
班に同行する教官に尋ねると、彼は興味深そうに石碑を観察した。
「これは珍しい。おそらく、古代における『力の封印』に関する儀式の痕跡でしょう。まだ詳しい解読は進んでいませんが」
「封印……」
リリアーナの脳裏に、黎明教団の噂がよぎった。
(もしかして、この遺跡自体が、あの教団の狙いに関係しているんじゃ)
「セレスティア、少し離れないで。何かあったら、すぐに私の傍に」
「はい」
(この子には、まだ黎明教団の詳しい話をしていないけど……余計な不安を煽るより、傍で守るほうが確実ね)
* * *
調査が進む中、突如として石碑が淡い光を放ち始めた。
「な、なに……!」
「危ない、下がって!」
教官が生徒たちを下がらせようとした矢先、石碑の魔法陣が展開し、その場にいた全員を包み込むほどの強い光が放たれた。
「きゃあ……!」
光が収まったとき、リリアーナは、周囲の様子が一変していることに気づいた。
「ここは……」
先ほどまでいた祭壇の間ではなく、見知らぬ地下空間に、リリアーナとセレスティアの二人だけが取り残されていた。
「リリアーナ様……! 皆さんは……!」
「落ち着いて。おそらく、石碑の魔法陣が発動して、私たちだけ別の場所に転移させられたんだと思うわ」
「そんな……!」
セレスティアの声が、不安げに震えた。
「大丈夫よ」
リリアーナは、その手をしっかりと握った。
「私が、絶対にここから連れ出すから」
「……はい」
セレスティアは、少しだけ安心したように頷いた。
* * *
地下空間を進むと、壁一面に、見たこともない古代文字と魔法陣が刻まれているのが見えた。
「これは……封印の間、かしら」
リリアーナは、慎重に周囲を観察した。
「この構造、明らかに何かを閉じ込めるためのものね」
「何を、封印しているんでしょうか」
「分からないわ。でも――」
リリアーナの視線が、部屋の中央に置かれた、小さな水晶の台座に留まった。
(あの水晶……なんだか、嫌な予感がするわ)
「セレスティア、あの水晶には触れないで」
「はい」
二人が慎重に部屋を進んでいたそのとき、通路の奥から、複数の足音が響いてきた。
「――誰か、来る」
「先生方でしょうか」
「分からないわ。念のため、隠れましょう」
物陰に身を潜めた二人の前に現れたのは、教官でも生徒でもなかった。
フードを深く被った、見知らぬ集団だった。
「――やはり、この遺跡か」
低い声が、静かに響いた。
「『器』の封印、ここにあったとはな」
その言葉に、リリアーナは息を呑んだ。
(黎明教団……!)
セレスティアの手を、リリアーナは強く握りしめた。
(絶対に、あなたを、この人たちには渡さない)
<続きます>
次回予告:黎明教団の一団と鉢合わせたリリアーナとセレスティア。逃げるべきか、戦うべきか――遺跡の奥で、二人だけの決断が迫られる。




