第十五話 悪役令嬢、生徒会に迎えられる
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十五話 悪役令嬢、生徒会に迎えられる
「え……私が、生徒会の書記?」
生徒会室に呼び出されたリリアーナは、辞令を前に固まっていた。
「はい。会長権限で、任命させていただきました」
新生徒会長の椅子に座ったセレスティアは、にこやかに書類を差し出した。
「な、なんで私が! 誰にも相談されてないんだけど!」
「選挙戦のときも、事後承諾でしたよね」
「そ、それとこれとは話が違うでしょう!」
「リリアーナ様の書類仕事、とても丁寧で分かりやすいんです。ぜひ、力を貸していただきたくて」
セレスティアは、両手を合わせて頭を下げた。
「お願いします」
「な、そんな風にお願いされたら……」
(断りたいのに、断りづらい……!)
「わ、わかったわよ! 仕方ないから、手伝ってあげる!」
「ありがとうございます!」
「べ、別にあなたのためじゃないわ! 生徒会の運営が滞ったら、学園全体の面目に関わるからよ!」
「はい、そういうことにしておきます」
* * *
生徒会の仕事は、想像以上に多岐にわたっていた。
「次は、来月の校則改定案の取りまとめです」
「これ、意見が真っ二つに割れているじゃない。制服の規定と、部活動の予算配分で」
「はい……どちらの意見も、それぞれ理があって、まとめるのが難しくて」
セレスティアが、困ったように書類を見つめる。
「貸しなさい」
リリアーナは、書類を受け取ると、素早く目を通した。
「両方の主張、根っこにあるのは同じよ。『学園生活の自由度を上げたい』、それだけ」
「同じ、ですか?」
「制服規定の緩和も、部活動予算の増額も、要は生徒がもっと自由に活動できる環境を求めているの。だったら、両方を満たす折衷案を作ればいい」
リリアーナは、すらすらとペンを走らせ、新しい提案書を作り上げていく。
「す、すごいです、リリアーナ様……!」
「これくらい、当然でしょう」
(公爵家の跡取り教育、伊達じゃないもの)
* * *
夜遅く、生徒会室に残るのは、リリアーナとセレスティアの二人だけになっていた。
「今日も、遅くまでありがとうございます」
「別に、いいわよ。中途半端な仕事のまま帰るなんて、性に合わないもの」
「リリアーナ様がいてくださって、本当に助かります」
セレスティアは、机に頬杖をつきながら、リリアーナを見つめた。
「一人だったら、きっと今頃、途方に暮れていたと思います」
「あなた、案外、しっかりしているじゃない」
「そうでしょうか」
「討論会のときも、想定問答以上の答えを、自分の言葉で返していたし」
「リリアーナ様が、あんなに準備してくださったからです」
セレスティアは、微笑みながら続けた。
「私、リリアーナ様がいなかったら、生徒会長になろうなんて、考えもしなかったと思います」
「な……そんなこと」
「本当です。リリアーナ様が背中を押してくださったから、頑張れました」
「べ、別に、押した覚えはないけど……」
(でも、そう言ってもらえるのは、悪い気分じゃないわ……)
* * *
「――さて、今日はここまでにしましょうか」
「そうね。もう、こんな時間だし」
二人は、片付けをしながら、他愛のない会話を続けた。
「そういえば、リリアーナ様」
「何よ」
「最近、あまり躓かなくなりましたね」
「あ……」
言われて気づいた。特訓の成果か、それとも別の理由か、確かに最近は転ぶ頻度が減っていた。
「あなたのおかげ、と言いたいところだけど、まだ完全とは言えないわ」
「そうですか。じゃあ、また今度、続きの特訓もしましょうね」
「な……まだやるの」
「はい。完璧になるまで、お付き合いしますから」
「そ、そう……」
(この子、ずっと、こうやって隣にいてくれるつもりなのかしら)
そんな考えが頭をよぎった瞬間、リリアーナの胸に、また、あの温かい何かがこみ上げてきた。
(この気持ち、いい加減、名前をつけたほうがいいのかもしれないけれど……)
(いいえ、まだ、深く考えないでおきましょう)
リリアーナは、その考えに蓋をするように、話題を変えた。
「そ、それより、片付け終わったなら、帰りましょう。遅くなると、ミリアに叱られるわ」
「はい」
* * *
生徒会室の窓の外、月明かりの下を並んで歩く二人の姿を、こっそり見守る影があった。
「殿下、また尾行を」
「尾行ではない、見守りだ、レオン」
「同じことです」
「今宵も、彼女たちは尊い時間を過ごしていたようだ」
アルベルトは、満足げに頷いた。
「新学期も、平和に始まりそうだな」
「殿下、その言葉、フラグにならなければいいのですが」
「フラグ? 何のことだ」
「いえ、なんでもありません」
<続きます>
次回予告:平穏な生徒会活動の日々が続く中、王都で不穏な事件が発生する。聖女の力を狙う何者かの影が、静かに学園に近づいていた。




