第十四話 悪役令嬢、選挙に巻き込まれる
『悪役令嬢の私が聖女に好かれてどうする!?』
第十四話 悪役令嬢、選挙に巻き込まれる
「新学期、恒例の生徒会選挙を実施します。今期の会長候補として、推薦を受けた生徒が複数名――」
教壇に立つ担任の声に、教室がざわついた。
「その一人が、セレスティア・ルミナス様です」
「え……私、ですか?」
セレスティアが、驚いた様子で立ち上がった。
「聖女候補として、また魔法大会での活躍もあり、多くの生徒から推薦の声が上がっています」
「そんな、私なんて……」
「セレスティア様なら、絶対にいい生徒会長になると思う!」
「私も応援します!」
教室のあちこちから声が上がる。
(あの子が、生徒会長候補……ふうん)
リリアーナは、腕を組んで小さく頷いた。
(似合っているじゃない。あの子なら、きっといい会長になるわ)
* * *
放課後、生徒会室の前で、セレスティアが困った様子で立ち尽くしていた。
「セレスティア? どうしたの、そんなところで」
「あ、リリアーナ様……実は」
「何かあったの」
「立候補には、選挙戦を支援する『後見人』が必要みたいで……推薦してくれた方々は、皆さん既に別の候補の後見をしていて」
「後見人?」
「選挙活動の演説作成や、遊説の付き添い、対立候補との討論の準備など、支えてくれる人のことです」
「ふうん」
リリアーナは、少し考えるように顎に手を当てた。
(この子、まっすぐすぎるところがあるから、選挙戦みたいな駆け引きの多い場は、少し心配ね……)
「それで、後見人が見つからないと、どうなるの」
「立候補を、取り下げることになると思います」
「取り下げる? あなたは、生徒会長になりたくないの」
「なりたい、というより……皆さんが応援してくださっているので、応えたい気持ちはあります」
セレスティアは、少し俯いた。
「でも、後見人がいないのなら、仕方ないですね」
「――待ちなさい」
「え?」
「私が、後見人になるわ」
「リリアーナ様が!?」
「そう。文句あるの」
「あ、ありがとうございます! でも、いいんですか、リリアーナ様の評判に――」
「うるさいわね。悪役令嬢が誰かの後見をするなんて、面白い噂の種になるじゃない。それだけよ」
(別に、あなたが会長になれなくて悲しそうにしているのを見たくないから、なんて理由じゃないんだから)
* * *
選挙戦が始まると、リリアーナは徹底的に動いた。
演説原稿の推敲、対立候補の主張の分析、討論会での想定問答の作成――どれも公爵令嬢としての教育で培われた能力が、遺憾なく発揮された。
「リリアーナ様、こんなに詳しく調べてくださって……」
「当然でしょう。中途半端な準備で、あなたが恥をかくのは許さないもの」
「はい。ありがとうございます」
夜遅くまで生徒会室にこもり、資料を作る二人の姿は、いつしか学園中の噂になっていた。
「セレスティア様の後見人、ヴァルフェルト様なんだって」
「悪役令嬢様が、あんなに一生懸命……」
「二人の絆、選挙戦になっても健在だね」
「尊い……」
* * *
対立候補の一人は、上級生のダミアン・レイクスという人物だった。討論会の場で、彼はセレスティアに鋭い質問を投げかけた。
「ルミナス嬢、聖女候補としての立場は分かるが、生徒会運営には政治的な調整力も必要だ。君に、その経験があるとは思えないが?」
会場がざわめく中、セレスティアは一瞬言葉に詰まった。
(大丈夫、想定問答通りに……)
「たしかに、政治的な経験は、まだ多くありません」
セレスティアは、まっすぐにダミアンを見た。
「ですが、私には、誰よりも信頼できる方が支えてくださっています。経験が足りない部分は、学びながら補っていきます。それが、成長ということだと思います」
「ほう」
「そして、私が生徒会長として大切にしたいのは、権力ではなく、皆さんの声にきちんと耳を傾けることです。それだけは、誰にも負けない自信があります」
その言葉に、会場から拍手が起こった。
(さすがね、セレスティア。想定問答以上の答えを返すなんて)
控室で見守っていたリリアーナは、思わず口元を緩めていた。
* * *
選挙戦最終日、投票の結果が発表された。
「新生徒会長に、セレスティア・ルミナス様が選出されました!」
会場が、大きな拍手と歓声に包まれた。
「や、やった……!」
セレスティアが、目を潤ませながら振り返る。
「リリアーナ様のおかげです!」
「な……勘違いしないで。あなた自身が頑張ったからよ」
「でも、リリアーナ様が支えてくださらなかったら、こんな結果には」
「うるさいわね。良かったじゃない、それでいいでしょう」
そう言いながらも、リリアーナの顔には、隠しきれない笑みが浮かんでいた。
* * *
その夜、王城の一室で、アルベルトは報告書に目を通していた。
「殿下、生徒会選挙の結果です」
「ああ、聞いている。セレスティア嬢が、見事当選したと」
「はい。後見人として、リリアーナ様が全面的に支えられたとか」
「知っている」
アルベルトは、静かに微笑んだ。
「彼女は、いつもそうだ。誰かのために動くとき、誰よりも本気になる」
「殿下、それは尊いというお話ですか」
「無論だ」
窓の外には、静かな夜が広がっていた。
<続きます>
次回予告:生徒会長となったセレスティアの補佐として、リリアーナは思いがけず生徒会役員に迎えられる。慣れない仕事に振り回されながらも、二人の距離はさらに近づいていく――。




